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2016.09.30

『密会は雪の肌で』 #10 渡辺淳子

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翌日私は、ドラッグストアで薬用雪肌精の化粧水と乳液、そして美容液を買い求めた。瑠璃色のボトルを紙袋からとり出し、自宅の洗面所の棚に置いたときは、あのときと同じような気持ちになった。

  シャワーの後、妙な高揚感とともに、雪肌精を全身に丁寧に塗りこんだ。

  肌がしっとりと潤ってゆく。塗ったところから、しみが消えてゆくような気すらした。こんなに肌を愛おしんだのはいつ以来だろう。

  まだ優希が一歳くらいのときだ。私は瞬助に子供を任せて、お風呂に入った。すると母を恋しがる優希が暴れて、どうにも泣き止まないといったことがあった。

「多香子! ダラダラしてんと、早よ出て来い!」

  優希をもてあました瞬助に怒鳴られた。まさに洗面所で化粧水をつけようとしていたときだった。

  優希の泣き声は入浴中もずっと聞こえていた。手早く髪と身体を洗い、湯船で温まるのもそこそこに浴室から出たというのに……。

  母親は化粧水をつけることも許されないのか。私はしみじみと落胆したものだ。

  そんなやるせない体験を、身体から立ちのぼる芳香はやさしく包みこんでくれた。

  自分を大切にしなさい。

  雪肌精が私にささやいた。

  パジャマを身に着け、そっと寝室に入ると、ダブルベッドの真ん中で優希が大きな寝息をたてていた。クーラーが適度に利いている。Tシャツにトランクス姿の瞬助は、ベッドサイドのライトをつけたまま、優希の方に身体を向けてうとうとしていた。

「ねえねえねえ」

  私は瞬助の背後からそっと身体を寄せ、旦那の引き締まった脚に自分の脚を絡めた。瞬助のすねの毛が、さらさらと私の素足をくすぐる。

「……なんや」

「ねえねえ、この香り、どう思う?」

  瞬助の顔を覆うようにして、自分の手のひらを旦那の鼻先へもって行った。

「知らんがな……」

  瞬助は目を閉じたまま迷惑そうに言い、首をねじって顔をこちらに向けた。私は自分の身体が入るスペースを作るべく、優希の身体をそっとベッドの端へ押しやった。

「いい香りだと思わない?」

「……ようわからん」

  瞬助は大きく鼻から息を吸って、仰向けになりながら答えた。優希は熟睡しており、目を覚ます気配はない。

「そんなこと言ったら、私、何するかわかんないよ」

  言いながら、瞬助の脚をするりするりと撫でまわした。そしてトランクスの裾から手をさし入れ、旦那の大切な部分をゆっくりと刺激した。

  瞬助のものがだんだん大きくなっていくのがわかった。彼はときおり鼻から大きく息を吸っており、眠気をすっかり忘れたようだ。

  トランクスの中のものが完全な姿になったころ、私は手を引いて瞬助にささやいた。

「じゃあ、おやすみ」

  目を閉じていた瞬助は薄目を開けて、また迷惑そうな顔になった。

「こんなにしといて、あとは知らんちゅうことはないやろが……」

  瞬助の大きな手が私のパジャマの下にもぐりこんできた。その手はおもむろに右のバストをつかんで、揉みしだく。

「知りませんね。そんなこと」

「自分でせえっちゅうんか」

  瞬助の手はだんだん下の方にのびてゆく。

「優希が起きちゃう……」

「起きるかいな」

「もう……。明日早いのに……」

「誘ったんはそっちやぞ」

  形だけの軽い抵抗を試みた私に、瞬助は怒ったように身体をかぶせてきた。



 




渡辺淳子 Junko Watanabe

滋賀県生まれ。看護師として病院等に勤務。若い男女の結婚観を描いた「父と私と結婚と」で、2009年第3回小説宝石新人賞を受賞。著書に『もじゃもじゃ』『結婚家族』『東京近江寮食堂』がある。

 

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