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2017.03.11

【今週の大人センテンス】福島県広野町で米を作る若き生産者の誇りと覚悟

citrus

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

 

第49回 理不尽な非難を静かに受け止める悲しみ

 

「逆の立場だったら同じことを言っていると思う」by横田和希(福島県広野町の最年少米農家)

 

【センテンスの生い立ち】

 

3月10日付の朝日新聞に〈福島米、ふるさと納税で完売 最年少農家「うちは特殊」〉という記事が掲載された。そこに登場する横田和希さん(36)は、福島第一原発から30キロ圏内に位置する福島県広野町で米作りをしている。町が米の作付けを再開した2013年、横田さんは福島・会津地方の農家の人から「毒米を作るから福島のイメージが悪くなるんだ」と非難されたという。横田さんは相手の気持ちもわかると言いつつ、こう語った。

 

【3つの大人ポイント】

 

・理不尽な非難を受け止め、相手に理解を示している

・福島や日本が抱えている問題を端的に表現している

・恨みつらみではなく未来への希望を明るく語っている

 

 

東日本大震災から、6年が経ちました。2011年3月11日午後2時46分。あなたはどこで何をしていましたか。あの日の大地震と大津波、そしてその後に起きた福島第一原発の大事故は、多くの犠牲を出し、多くの人の人生を変えました。どれだけ時間が経っても大切な人を失った悲しみが癒えることはないし、被災地の「復興」もまだまだこれからです。

 

警察庁によると、10日現在で死亡が確認された人は12都道府県で1万5893人、行方不明者は6つの県で合わせて2553人。復興庁によると、いわゆる「震災関連死」と認定された人は、去年9月までに10の都県で少なくとも3523人。6年がたった今も、全国で避難生活を余儀なくされている人は12万3168人。うち10万4991人が、プレハブの仮設住宅や民間の賃貸住宅を借り上げた「みなし仮設」、福祉施設などで暮らしています。

 

ここ数日、テレビでも新聞でもネットでも、震災関連の話題をたくさん目にしました。心を打つ番組や記事がたくさんありました。「この時期だけ思い出しても……」という批判もありますが、今の状況や問題点を知ることで、自分にできることを考えたり実際に行動を起こしたりするきっかけにしたいところ。被災地はどこもたいへんですけど、なかでも原発事故があった福島県は、ひときわ複雑な問題と深い苦しみを抱えています。

 

3月10日付「朝日新聞」に、福島県広野町で米作りをする農家を取り上げた記事が掲載されました。広野町はいわき市の北隣、福島第一原発から30キロ圏内に位置します。記事に登場しているのは、町内の米農家でいちばんの若手である横田和希さん(36)。震災後、農業を断念したり避難して米作りができなくなったりした農家から田んぼを任され、町内最大の24ヘクタールを作付しています。

 

福島米、ふるさと納税で完売 最年少農家「うちは特殊」

 

町では2015年度から、町内で生産された米をふるさと納税の返礼品に充てることにしました。3万円の寄付で、農薬の使用を抑えた特別栽培のコシヒカリ60キロ分と地元産大豆を使った無添加みそが届きます。初年度は目標には届かなかったものの、2年目の今年度は、4カ月かからずに目標の1000件に届いて、予定より早く受付を終了しました。

 

横田さんも、返礼品用に今年度は4200キロを納品。じつは自分のルートで販売したほうが高い値段がつくし、返礼品として出荷する場合は精米する必要があって「ぶっちゃけこれがつらい。腰を痛めた」とか。しかし、お米を食べて町の名前を知ってほしい、多くの人に町に来てほしいという思いで、町に協力しています。記事には「味は負けない。よそのブランド米を食べても、たいしたことない」という頼もしいセリフも。タイトルにある「うちは特殊」は、おいしい米を出荷するために選別作業を2回もやっていることを指します。

 

福島県では2012年度から、県内で生産した玄米は「全量・全袋」を対象に、放射性物質の検査を実施しています。1,000万袋以上を検査しますが、この2年、国の基準値(100ベクレル/Kg)を超えたものはありません。もちろん広野町も検査を行なっていて、15年産、16年産の米で25ベクレル以上検知されたものはありません。ある調査によると、福島県産が「全量・全袋」の米を検査していることを知っている人は、県内では79%ですが、県外では41%と半分以下でした。他県の米に比べて1割ほど安値で取引されているし、米に限らず「福島産」の農産物を避ける人は、残念ながらけっして少なくありません。

 

町が米の作付けを再開した2013年、横田さんは同じ福島の会津地方の農家の人に、こう言われました。「毒米を作るから福島のイメージが悪くなるんだ」。きっと、悲しくて悔しくて腹立たしかったに違いありません。しかし横田さんは、相手の気持ちに理解を示しつつ「逆の立場だったら同じことを言っていると思う」と言います。

 

理不尽な非難をこんなにも広い心で受け止められる人が、逆の立場になったからといって、同じことはけっして言わないでしょう。かといって、言った相手を責めても何も解決しません。震災後から今に至るまであちこちで生まれている対立の構図、不安や無知から生まれる偏見、身近なところに敵や悪者を作りたがる人間の弱さ……。福島や日本が抱えている問題を端的に表わしているエピソードです。

 

この新聞記事が深く心に響いてくるのは、福島の「かわいそうな姿」が描かれているからではありません。横田さんをはじめ町の人たち、福島の人たちが未来に向かってがんばっている姿や、そのベースにある農業という仕事に対する誇り、故郷を大切に思う気持ち、これからも前を向いて生きていくんだという覚悟が伝わってくるからです。

 

自分も含めてですが、被災地ではない地域に住む人たちが絶対に忘れていけないことは何か。たぶんそれは、「寄り添う気持ち」や「絆の大切さ」といった響きのいいお題目ではありません。同情や憐みでもありません。もちろん、支援の気持ちや行動は大切です。同時に忘れてはいけないのは、いつしか関心が薄れてしまっている自分の薄情さや、福島から避難してきた人にひどい仕打ちをするような社会に住んでいるということ。

 

自分は自分が思っているより薄情だという前提があるからこそ、務めて関心を持ったり自分にできることを探したりできます。連日のように報じられる「ひどい仕打ち」に関しても、「自分はやっていないから関係ない」ということではなく、そんな悲しい社会の一員だということを謙虚に自覚しておきたいもの。油断していると、ひとつ間違えたら無意識のうちに「ひどい仕打ち」をする側や、している人を擁護する側になりかねません。

 

ネット上では原発がらみの話題になると、客観的なデータも当事者の気持ちも無視して、ヒステリックな罵声を平気で投げかける人が現われます。「意識が高い自分」に酔いたい気持ちはわかりますが、人様の故郷を「汚れた場所扱い」するのは、かなり失礼で「ひどい仕打ち」ではないでしょうか。東電や原発を批判することと、福島に住む人たちに敬意を表することは両立するはずです。あなたが「福島産」に抵抗を感じるのは勝手ですけど、じゃあ個人的に買わなければいいだけ。がんばっている人の足を引っ張るのはやめてください。

 

 

【今週の大人の教訓】

反発するより理解を示したほうが、自分の気持ちが深く伝わる

コラムニスト 石原壮一郎

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