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2017.03.16

なぜF1のフロントウイングはこうも奇怪なデザインなのか?

citrus

F1のフロントウイング。“ウイング”といえども航空機のそれとは大きく異なる

最近のF1マシンのフロントウイングを見て、「何だコレ!」と思った人は多いのではないだろうか。確かに、「ウイング」という言葉から連想するカタチとは、ずいぶんかけ離れている。派手さを競った結果こうなったのではない。きちんとウイングとして機能している。ずいぶん多機能だけれども。


「ウイング」と聞いて思い浮かべるのは、よく利用したり、たまに利用したり、一度は写真や映像で見たことがあるはずの旅客機のウイングだろう(戦闘機マニアのみなさん、ごめんなさい)。横から見たときに、上面の方が下面よりもふくらんだ流線型のシンプルな断面形状をしているはずだ。それがウイングなら、F1のは一体何なんだ。


繰り返すが、やはりウイングである。ただし、飛行機のウイング(翼)とF1のウイングでは役割が決定的に違う。飛行機のウイングは、ウイングの上側を通る空気の方が下側の空気の流れより速くなり、その結果として上側の圧力が低くなって、その圧力差によって揚力(リフト)が発生する。ウイング(と、ウイングにつながった飛行機全体)を浮き上がらせようとする力だ。

 

 

■ウイングの効果でコーナリング速度があがる!


F1のウイングは複数の板が連なって構成されているので実感しにくいが、全体のフォルムとしては飛行機とは逆になっている。すなわち、上面よりも下面の方が膨らみは大きい。この場合は、下向きの力が発生する。マイナスのリフトだ。下向きの力が発生したところで、すぐ下には地面があるので、沈み込むわけにはいかない。大きなマイナスのリフトを発生させればさせるほど、車体を路面に押さえつける力が強くなる。これがダウンフォースだ。


路面に接しているのは4本のタイヤなので、ウイングがダウンフォースを発生させると、タイヤに掛かる力が大きくなる。軽く握った消しゴムは机の上をすべるように動くが、強く押さえつけた消しゴムはすべりにくい。それと似たようなもので、強いダウンフォースによって強く路面に押さえ付けられたタイヤはすべりにくくなり、コーナーを速く走れるようになる。そのために、高性能なウイングを開発しているわけだ。


ウイングを高性能にするには、角度(迎え角)を付けたり、湾曲の度合い(キャンバー)を大きくしたりすればいい。F1のフロントウイングの場合は、後ろ側が大きく反り返ることになる。そうして反り返りを強くしていくと、ウイング裏面の空気がその反り返りに追従してくれず、剥がれてしまう。それを防ぐためにウイングを細かく分割して隙間(スロットギャップ)を作り、前から裏に空気を供給してやるのだ。


そうすると、大きな反り返りをつけても裏面を空気が追従してくれるようになり、大きなダウンフォースを発生するようになる。これが、細かく分割されたフロントウイングのカラクリだ。

 

各チームともフロントウイングの形は似ているようで異なる。各車ウイングの中央部がスッキリしているのはレギュレーションで定められているため

 

■フロントウイングが持つ3つの役割とは


でも、これだけでは多機能なF1のフロントウイングをすべて説明したことにはならない。ダウンフォースを発生する以外にも、役割を担っているからだ。よく観察すると、外側の一部分には外側に強く湾曲した板が何枚か付いている。また、マシンによっては外側の一部分がラッパ状の断面になっている。


このエリアを通った空気は、フロントタイヤが発生させる乱流を外に飛ばす役割を担っている。なぜそんなことをするかというと、フロントタイヤで発生した乱流は、車両のミッド~リヤエリアの空力性能に悪影響を及ぼすからだ。乱れた空気ははじき飛ばし、きれいな空気だけをフロアの下や、フロアの上、そしてリヤウイングに流したいのである。


これが、フロントウイングが持つ第2の大きな役割で、この役割のためにウイングの外側が複雑な形状と構成になっているのだ。そして、それだけでもない。第3の役割もある。


車両中心線の左右各250mmをF1界隈では「Y250」(Y軸=左右方向のY)と通称している。合わせて500mmだ。写真を見るとわかるように、すっきりしている。このエリアにはウイングを設けてはいけない決まりだからだ。幅広の一枚板もウイング断面(上下非対称の断面)にしてはいけない決まり。いわばニュートラルゾーンである。


Y250のエリアでダウンフォースを発生させることはできないが、大きく開けたこのエリアから大量の空気を後ろに流すことで、車両ミッド~リヤでダウンフォースを増大させるのに使うことが可能だ。


その際役に立つのが、ボルテックスジェネレーターである。縦渦発生装置とでも言おうか。量産車にもアンダーカバーやリヤビューミラーの付け根、リヤコンビランプの側面などに突起として設けられていたりする。量産車の場合は車両姿勢を安定させるために縦渦を使うが、F1のフロントウイングの場合は、エネルギーを与えた渦(ごく小さな台風と思えばいい)を向かいたい方向に向かわせることで、ダウンフォース増大に使うわけだ。

 

量産車でもボディの要所に“突起”を設け、縦渦を効果的に使う。写真はトヨタ・プリウス


その渦を発生させるのは、フロントウイング内側の尖った先端部分である。このように、フロントウイングは3つの大きな役割を持った多機能デバイスなのだ。カタチが複雑な理由がおわかりいただけただろうか(理由も複雑か……)。
 

モータリングライター&エディター 世良耕太

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