美ST ONLINE 無料会員登録 あなたの「美生活」に役立つ情報お届けします

新着
2019.01.11

宝島社の新聞広告が語る“真実”を曲解する人たち【今週の大人センテンス】

citrus

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第115回 「嘘つき」とは誰のことか?

 

「嘘つきは、戦争の始まり。」by宝島社の企業広告

 

【センテンスの生い立ち】

1月7日付の新聞3紙に、宝島社の見開き全面広告が掲載された。読売新聞朝刊(全国版)と日刊ゲンダイに掲載された広告は、ローマの真実の口の写真をバックに、大きく「敵は、嘘。」のコピーとメッセージ。朝日新聞朝刊(全国版)に掲載された広告は、石油にまみれた真っ黒な水鳥の写真に、大きく「嘘つきは、戦争の始まり。」のコピーとメッセージ。どちらも大きな反響を呼び、ネット上では広告に対するさまざまな意見が交わされている。

 

3つの大人ポイント

  • 見る人をハッとさせて、深く考えさせてくれる
  • 反応によって、その人の残念さがあぶり出される
  • 商品の宣伝ではないのに、大金をかけ続けている

 

ご存知の方はご存知ですが、宝島社は「GLOW」「InRed」「Sweet」「MonoMax」といった人気雑誌や、単行本、ムックなどを精力的に出している出版社です。1998年から挑戦的な企業広告を定期的に発表し続けてきました。

 

記憶に新しいのは、去年の秋に新聞に掲載された、お亡くなりになった樹木希林さんがお茶目に舌を出した写真に「サヨナラ、地球さん」というコピーを添えた広告と、内田裕也さんや本木雅弘さんら家族三世代の写真に「あとは、じぶんで考えてよ。」というコピーを添えた広告。商品の宣伝ではなく、こういう企業広告に大金をかけている姿勢が、狙い通りに宝島社という会社のイメージを確実にアップさせています。

 

 

今年1月7日付の新聞に掲載されたのは、「敵は、嘘。」と「嘘つきは、戦争の始まり。」という二種類の広告。ローマにある真実の口の写真と「敵は、嘘。」のコピーを組み合わせた広告には、こんなメッセージが添えられています。

 

いろんな人がいろいろな嘘をついている。子供の頃から「嘘をつくな」と言われてきたのに嘘をついている。陰謀も隠蔽も改ざんも粉飾も、つまりは嘘。世界中にこれほど嘘が蔓延した時代があっただろうか。いい年した大人が嘘をつき、謝罪して、居直って恥ずかしくないのか。この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へ連れてゆく。嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。

 

 

もうひとつ、石油にまみれた真っ黒な水鳥の写真に「嘘つきは、戦争の始まり。」のコピーを組み合わせた広告に添えられたメッセージは、次のとおり。

 

「イラクが油田の油を海に流した」その証拠とされ、湾岸戦争本格化のきっかけとなった一枚の写真。しかしその真偽はいまだ定かではない。ポーランド侵攻もトンキン湾事件も、嘘から始まったと言われている。陰謀も隠蔽も暗殺も、つまりは、嘘。そして今、多くの指導者たちが平然と嘘をついている。この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へ連れてゆく。今、人類が戦うべき相手は、原発よりウイルスより温暖化より、嘘である。嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。

 

どちらも、おもに偉い人たちのあいだで「嘘」が蔓延している風潮を嘆き、それにみんなが慣れつつあることに危機感を示し、「嘘」への怒りを表明しています。もちろん、特定の国や人物を指しているわけではありません。人間や権力というものが宿命的に持っている“業”について、全般的に言っているとも読めます。

 

新聞でこの広告を見た多くの人は、身近で切実な問題として、今の日本の状況に照らし合わせて、「たしかにそうだ」「どうにかしないと」と思ったことでしょう。日本に住む私たちが、まず考えなければならないのは、世界や人類といった漠然としたものよりも、まずは日本のことであり、周囲のことであり、そして自分自身のことです。

 

しかし、物事のとらえ方や感覚は人それぞれというか、この広告がネット上で話題になると、「まさかそんな受け取り方をする人がいるなんて」と驚かされるコメントも見受けられました。おそらく、メインのコピーだけ見てメッセージは読んでいないのでしょう。「まさに韓国のことだな」といった類の見解を得意気に書き込んでいる人が少なからずいました。この広告は、ほかでもなく、そういう単純で浅はかでいかにも大きな力に騙されやすそうな人にこそ読んでもらいたかったに違いありません。

 

このところ日韓関係には、いろいろ難しい問題が横たわっています。しかし、しょせんはお互いの国がお互いの立場で自国に都合のいいことをあれこれ言っているだけ。どっちの主張が正しいか、どっちの主張が無理筋かなんて、メディアを通して情報を得ている私たちにはよくわかりません。手前ミソなのは、きっとお互い様でしょう。「マスゴミ」という言葉を使いたがる人に限って、もしかしたら意図的な印象操作がされているかもしれない情報を鵜呑みにして素直に怒ってらっしゃるのが、なんとも滑稽で仕方ありません。

 

いや、差別意識や偏見を丸出しにした態度のみっともなさはさておき、どの国にどういう感情を持つかは自由です。ただ、この広告を見て、日本の現状に心を痛めるのではなく、何の迷いも持たずに、よその国を罵倒するネタにする人がいるとは思いませんでした。世の中は広いなと感じさせてもらえて、ありがたい限りです。何がその人たちをそうさせたのか、そんな自分をどう思っているのか……。

 

いっぽうで、鬼の首を取ったように、安倍政権批判(だけ)に結び付けている人たちも、大きく言えば同じ穴の狢。たしかに、最近は政治家や官僚の「嘘」が目立ちます。偉い人たちが悪いことをしても「嘘」をつき通せば逃げおおせるし、公正なはずの大学入試でも「嘘」が明らかになりました。非正規雇用や外国人労働者の問題など、多くの深刻な問題も外から見た限りでは放置されたままです。

 

だからといって、政権を批判して満足している場合ではありません。この広告が敵視して警戒を呼びかけている「嘘」には、悪役を作って安易に正義の味方面をしたがる姿勢も含まれているのではないでしょうか。そう、結局のところ、いちばん気を付けなければいけないのは、自分が自分に対してつく「嘘」です。

 

どういう考え方の人も、いろんな場面で自分に対して「自分はちゃんとしてる」「自分はきっちり考えている」と思いたいがための「嘘」や、「感情的に言っているんじゃなくて、それだけの理由があるから言っているんだ」という「嘘」をつくことで、プライドを保ったり自分を正当化したりしがち。その手の「嘘」は、自分で気づきづらいし癖になります。

 

この広告をきっかけに、大きな「嘘」に目を向けることも大事でしょう。同時に、自分が自分につく「嘘」に対しても、慣れっこにならず、全力でやっつけたいもの。それが、メッセージにある「負の連鎖」を断ち切る第一歩です。

 

 

【今週の大人の教訓】

世の中だけでなく自分の気持ちも、常に眉に唾をつけて見たほうがいい

コラムニスト 石原壮一郎

totop
Mail
Instagram
rss
美ST
美魔女
セレSTORY
STORY
光文社

Copyright© 2019 Kobunsha Co., Ltd. All Rights Reserved.