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首席入学の宝塚OGが「母として仕事人として葛藤の日々だった」と語る理由

宝塚音楽学校に主席で入学し、黒木瞳さん、涼風真世さん、真矢みきさんなど名だたる同期とともに「伝説の67期生」と呼ばれた三ツ矢直生さん。最年少&首席で入学した音楽学校時代のエピソードや、子育ての話、そして音楽学校を受験する方へのアドバイスまで、たっぷり語ってくれました。

《プロフィール》
宝塚歌劇団音楽講師・聖徳大学客員講師。
宝塚音楽学校首席入学。宝塚歌劇団を「ベルサイユのばら」ジェロ―デル役で退団。1996年、32歳で大検を経て東京藝術大学音楽学部声楽科に入学。在学中より宝塚歌劇団の講師を務め、現在に至る。2018年より、パリ、NY、シアトルなどで演奏会を展開。同年、仏「アンクラジユマンピュブリックオフィシエ勲章」受勲。毎年12月24日にホテル椿山荘東京で開催する「三ツ矢直生クリスマスディナーショー」は2022年で22回目を迎えた。

最年少、首席で入学。学年代表委員になるも、自分の不甲斐なさを反省する毎日だった

中学卒業と同時に宝塚音楽学校に入学しました。私は中学3年生の時に合格したので、最年少学年で入学。たまたま「委員」に任命され、年上も多い67期生のまとめ役として音楽学校生活がスタートしました。委員は全然、適任ではなく(笑)。当時の宝塚音楽学校には伝統的な規則が1万個くらいありまして、さらに寮にもどっさり規則があったので、注意を受けることばかり。なかなかに緊張の日々でした。「学年代表委員なのに……」と、自分の不甲斐なさに毎日、反省して泣きべそを掻いていました。

でも上級生の方々に叱られても、自分たちの先を歩み、経験を積まれた先輩方へのリスペクトがあったので、素直に指導を受けることができました。また、細かい規則を体に叩き込むことで、危険の伴う舞台の現場でもそれぞれが安全に演じることに集中できるので、舞台上での事故が防げるんです。後々、実際に舞台に立つようになってから痛感しました。

そんな厳しい規律の中での生活でしたが、小学生の頃からの夢である「タカラジェンヌ」になるというスタート地点に立てたのでとにかく嬉しくて。日々、必死で取り組んでいました。今思えば、あの時に体得した「体と心をフルスロットルに使って何かに挑む」ということが、大人になった今もすべての原動力になっている気がします。

宝塚音楽学校を受験される生徒さんには「どのくらい好きですか?」と必ず尋ねます

宝塚歌劇団は、みんなが同じ舞台に立つという目標を持ち、活動できる劇場と機会(公演)が用意されている幸せなところです。
とはいえ、昨年も競争率は17倍だったそうで、やはり簡単な試験ではないとつくづく思います。でも、本当に大好きだったら「芸事が上手になりたい!」とか「心が強くなりたい!」「体の線を美しくしたい!」「美しい表情になりたい!」など強い気持ちが生まれ、それが圧倒的な稽古の量と質を生み、それが自信につながると思うんです。

そして、大切だなと思うのは、やっぱり素直さでしょうか。当たり前のことでもプレゼントのように、アドバイスを喜んで受け取り、それを活かせる生徒さんはどんどん上手になります。そういう生徒さんは、私もレッスンが楽しいので「あ、もう終わっちゃったのね!(笑)」って。今、習っていらっしゃるバレエや声楽の先生のおっしゃることを、大切にして素直に受け止められると、どんどん上手になれますよ。

トップスターになってからも、楽屋入り前の朝7時に個人レッスンを受けに来る生徒もいるんです!公演日だからゆっくり睡眠を取りたいのではないかと思うのですが、みんな向上心と探求心が本当に強い。生徒たちはお客様に対して素晴らしい舞台をお見せしたい、というモチベーションで努力し、自己管理を続けています。そのパフォーマンスの陰に尋常でない努力があるといつも感じています。本当に舞台が好きなのでしょうね。

子どもと関わる時間が少ない。母として、仕事人として葛藤の日々だった

宝塚歌劇団を退団後に、声楽を学ぶために32歳で東京藝術大学に入学し、そこで出会った同級生と結婚しました。現在、大学一年生になる息子が一人います。
ほかのお母さん達より、物理的に時間の面で息子と関われる時間が少ないのに、きちんと育てていけているのだろうかという葛藤が、子供が幼い頃には、いつも胸の中にありました。

そんな中、親として心がけてきたのは、一緒に興味を持って、実際に体験し楽しむこと。ちょうど小学校高学年くらいから日本のお城に興味を持ち始めたので、休みのとれた4日間、車を借りて、愛知や岐阜にあるお城を片っ端から観に行きました。砂漠を見たいと言い出した時は、私も現地の暮らしを見てみたかったので、実際にアラブに砂漠を観に行きました。親子で暑さにぐったりしましたが(笑)、ワクワクを共有できる幸せな時でもありました。

かなり仲良し親子のつもりでしたが……私自身がずっと女子校育ちで、宝塚歌劇団も女性ばかり。男の子の心というものがそもそもよくわからなくて。思春期はどう接して良いかわからず、真正面からぶつかり過ぎ、大変でした。先に子育てを終えた宝塚の上級生や下級生に、「みんな通る道」と励まされたことも。もっとハードな(笑)反抗期の話を聞かせてくれたり、対処法を教えてくれたり……本当に周りに助けられました。

今、息子は大学生で、ずいぶん大人になりました。もちろん反抗期は過ぎ去り(笑)、良好な親子関係を築けています。最近は、息子や夫のリクエストで夕飯を作って一家団欒をするのが幸せな時間。歌うことと舞台や仕事以外にリラックスできる時間があるということは、本当にありがたいことだと思っています。

三月に久しぶりにクラシックオペレッタヨハンシュトラウスⅡ『こうもり』の舞台で、燕尾服で歌います。私が宝塚の退団公演で演じた『ベルサイユのばら』の作者・池田理代子さんと共演させていただきます。今も稽古の真っただ中ですが、稽古から帰宅してホッとする瞬間には、歌うことと舞台しか知らなかった私のそばにずっといてくれる家族の存在が有難いなと、改めて感謝しています。

3月12日(日)13:30開場14:00開演
Johann Strauss IIオペレッタ『こうもり』三ッ矢直生:オルロフスキー役
共演:田代誠、田中宏子、小栗純一、池田理代子
場所:北とぴあ さくらホール
ご予約・お問い合わせ:☎03-3546-9005(株式会社ムジカラパン)

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撮影/杉本大希 ヘア・メーク/広瀬あつ子 取材/岩崎香織 編集/永見 理

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