人生を変えた作家・蒼山日菜さんの美しき切り絵の世界

芸術は究極の美の形が具現化されたものだから。それを生み出すアーティストたちが美しいのは、当然かもしれません。日々、美と真剣に向き合っているからこその美オーラ。美は内面から、と確信できます。

フランスで一人、孤独から救ってくれたのが切り絵。夢中に没頭することが究極の幸せ

お話を伺ったのは……切り絵作家 蒼山日菜さん(49歳)
異国の町で孤独で、やっとできた友人が切り絵をしていたことが始まりでした。当時は人種差別が酷く、特に辛かったのが息子への差別。最初は息子のため、動物たちや妖精の切り絵で絵本を作ることが目的でした。孤独な私にとって“空想の味方”を無意識に創っていたのかもしれません。無心で没頭する時間が救いでした。その後、隣町への引っ越しが転機に。町からの要請で個展を開催、初めて作品が売れたのです。「あなたは、私以上に辛い想いをしてきたのね。乗り越えられる。大丈夫。ありがとう」と女性は涙を流しました。当時、誰にも言えず、辛い想いを一人抱えていた私。その時、「初めて買ってくれたこの人に恥じない、自慢できる作家になろう」と決心しました。その方のことは今でも忘れません。富や名声ではなく誰かをもっと元気にしたいと強く思うことが制作の原点。人が喜べば自分の自信にも。自信は美にも繫がると信じています。

自然が創り出した美しさがインスピレーションの源

自然が創り出した景色や生命は神秘。自然界の美しさに感化されて制作の原点に。蝶や植物をモチーフにした切り絵のモビールは光と風を受けてまるで生き物のよう。

蒼山日菜さんの作品

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まるでレースのように繊細な作品の数々。1:風が吹けば今にも飛びたちそうな蝶々の美しさは儚い命そのもの。2:ご自身が尊敬するフランスの哲学者ヴォルテールの小説の一節を抜粋。文字の意味よりもヴォルテールの精神や生き様を作品から感じ取ってほしいとのこと。3:コンセプトを基にアートとして制作するきっかけにもなった作品。蓮子(れんし)のモチーフをパズルのように繋げた1m40cmのご自身最大作。

一番の難関は周りのディテール、集中力の持続が重要

切り絵の最大の難関は最後の周りのディテール。完成に近づくにつれ紙が繊細な糸のようになり絡まることも。最後の最後に失敗すれば全て台無しになってしまう。

ハサミで切り拓いてきた人生。もはや体の一部に

先端が針のように細い特注のハサミはご自身のプロデュース。ハサミ一本で繊細な全ての作品を切っていくので、ハサミのメンテナンスは重要。切り絵のお皿やカップも制作。

相棒のムギは年頃で恥ずかしがり屋さん

5年前、捨てられていたムギの存在をFacebookで知り保護。初対面の人にも遠慮がちに寄り添う相棒。癒され、心地よいアトリエ兼自宅の象徴的存在。
2020年『美ST』6月号掲載
撮影/資人導 ヘア・メーク/永田紫織〈ラ・ドンナ〉 取材/安田真里、山田頼子 編集/小澤博子、桐野安子