FEMTECH
日本では、夫婦の半数以上がセックスレスだといわれています。なかには「レスでも特に気にならない」という仲のいい夫婦も存在しますが、WEBデザイナー・イラストレーターの亜美さん(仮名・45歳)は性交渉がないことに不満があったそう。「怒るほど大きな不満ではない」と自分に言い聞かせてきたという亜美さん。そんな彼女が離婚を決意するきっかけとなったのは夫のある一言でした。
亜美さんと離婚した元夫・瑛太さん(仮名・45歳)は公務員。2人は地元のバスケサークル仲間の紹介で知り合いました。そして結婚15年目にあたる1年前、離婚が成立。2人の間には10歳の一人息子がいます。
「元夫は、普段は優しくて気が利くバスケ好きおじさん。今でも息子と面会はしていて仲もいいです。でも、お酒が入ると面倒くさくなるところがあって。20代の頃は地元のスナックで女性にスキンシップをとろうとして、お店を出禁になったこともありました」
離婚の話が出る前には、お酒の勢いで浮気したことが発覚。
「泥酔して帰ってきたので、スマホをはじめ証拠がだだ漏れ。本人もさすがに反省はしていましたが…」
亜美さんにとってとりわけショックだったのは、息子が生まれて以来、一度も性交渉がなかったにもかかわらず浮気をされたことでした。
「性交渉ができるか試してもいないので“妻だけED”なのかどうかもわかりません。出産直後は私の体型も戻っていないし胸を出して授乳をしているし、『その気にならなくても仕方がない』と考えていました。けれど、2年3年とたつうちに『あれ? これが噂のセックスレス?』と少し焦り始めました」
子どもは一人でもかまわないと思っていた亜美さんですが、30代でのレスに「なんとなく嫌だな」という気持ちがあり妊活を切り出したそうです。
「半ば口実ですが『2人目どうする?』と聞いたら、彼は『この地域は中学受験が盛んだし経済的に1人でいい気がする』と。ローンや2人の給料など収支を書いた紙を印刷して真面目に説得されました。そこで『そういう意味じゃなくてセックスレスだから!』と言う気力や情熱は、もうありませんでした」
瑛太さんは、役所の中でもストレスの大きい部署に所属しており、その反動か、30代から飲酒量がぐんぐん増えていきました。
「いいパパではあったんです。スポーツマンで、地域のバスケサークルに入って子どもにバスケを教えたり。その割に体育会系感はなく普段は物静か。20代の頃はそんな性格が好きでした。ただ、酒癖が悪すぎるところと、車のスピードを出しすぎたり冬に危険な雪山に登ったりするスリル中毒気味なところは苦手でしたね」
2人は半年に一度くらい数日間口をきかないような大ゲンカをしては、「子はかすがい」と亜美さんが譲歩して仲直りをするのを繰り返していたそうです。
「最悪の事件を挙げるとしても酔った勢いでの浮気くらい。証拠もありましたが、そのころは『私にも欠点はあるし、レスでも酒乱でも浮気でも、安定して稼いで息子に優しくしてくれればそれでよし』と考えていました」
セックスレスや浮気すら耐えることができたなかで、亜美さんにとって離婚の決定打となったのは意外な出来事でした。
「私はもともとバスケ部で背が高く痩せていたのですが、両親は中年以降太っていて遺伝的には太りやすい体質。大柄で太ると威圧感が出るかなと思い、体型維持のためにフラダンスを始めましたのですが、すっかりハマってしまって。今では年に1回の発表会を目指して、週に1回は踊っています」
スリムで長い黒髪が美しい亜美さんは年齢より若々しく見えますが、フラは体型維持や美容を超えた「大切な趣味」なのだそうです。
「10代から70代までいるフラ仲間とは年齢を超えて親しくしていますし、先生の穏やかな雰囲気や所作の美しさにはずっと憧れています。そんな大好きなフラですが、息子には発表会を見せたことがなかったんです。『男の子だから興味はないかな』と思い、発表会の日は預けていました。でも去年、初めて『ママのフラ、見てみたい』と言ってくれて。嬉しくて、夫に『息子と一緒にフラを見に来て』と頼んだんです。夫に来てほしいというより、付き添いですね」
ところが瑛太さんは「やだよ」と即答。前日に職場の飲み会があり寝たいという理由でしたが、発表会は午後でした。
「しかも面と向かって、『俺、そういうの苦手なんだよね。素人のおばさんのフラダンスとか見てらんない。あと亜美がのめり込みすぎてるのもなんか気色悪くてさ。宗教っぽいというか』と言われたんです。そのときは『え。私、何を言われたんだろう』と、すぐには怒れませんでした」
数分後、亜美さんの中で感情が一気につながります。
「『気色悪い、気色悪い。そりゃレスだよな。無理だもん、気色悪い人とは物理的に』と、すっと腹落ちしました。コップの水がこぼれる、最後の1滴でした」
ちょうど同じ頃、長男が中学受験塾を辞めたいと言い出したそうです。
「バスケ仲間と公立に行ってバスケを続けたい、塾は5年生になるとバスケの日とかぶるから嫌だ、とはっきり意思表示をされました。それに対して夫は『何をバカなことを言っているんだ。わがままを言うな』という冷たい態度でした」
「気色悪い」発言で、すでに我慢の限界に達していた亜美さんは、子供の前で怒鳴ってしまいそうになり、頭を冷やすため、同じ区内に住む両親の家に一旦帰ります。最初は数日のつもりでしたが、気が付けば1週間経っていたそうです。
「息子は学校がありましたし、最初は私も数日のつもりだったので息子を置いて家を出たんです。ですが、1週間目に本人から電話があって『ママに会いたいし、じいじの家に行く』と言って来てくれました。夏休みに入るタイミングでもあり、『離婚の意思を伝えるなら今だ』と思いました」
そこから離婚・親権の話し合い、就職活動、越境して小学校に通うための手続きなどで、目まぐるしい日々が始まります。瑛太さんは浮気がバレていることもあり、「いつか離婚するかもとは思っていたけどなんで今なの?」とどこか面倒くさそうに不満を漏らしていたそうです。
「私は、今は小規模のIT企業の正社員とフリーイラストレーターを掛け持ちしています。養育費ももらっているので、なんとか慎ましく暮らしています。両親も高齢なので子供と実家に住めるのは嬉しいですね」
元夫はいまだに、離婚理由は「浮気」だと思っているそう。
「一生そう思っていればいいと思いました。特別な悪人ではないので息子とは自由に会わせていますが、私は会いたくないですね。向こうに彼女ができたらしいので、なおさらです」
※本記事では、プライバシーに配慮して取材内容に脚色を加えています。
取材・文/星子 編集/根橋明日美 イメージ写真/PIXTA
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