HEALTH
人や物の名前がなかなか出てこなかったりして「若い頃と何かが違う!」と、脳の老化が気になっている人はいませんか?そんな自覚がある人は今の状態を放置せずに、できることから今すぐ始めましょう。睡眠や食生活など、日常生活の中で脳のために気をつけられることがあるんです!
そもそも脳の老化は〝記憶の低下〟だけではなく、人によって個人差もありますし、タイプもさまざまです。やる気が低下したり、物事を客観視したり感情を抑制する力や共感する力が衰えたり。また、聴力低下も脳の老化による可能性があります。ただ、これらは日々の習慣の積み重ねで変えることができるんです。脳は最終的には130歳を超えても生きられるとも言われているからこそ、できるだけ長持ちするように、普段から脳のメンテナンスは欠かせません。人生は一度きり。健やかな脳を保つためにおすすめしたい10のTIPSを紹介します。
東京工業大学大学院生命情報専攻修了。博士号を取得後、特許庁に入庁。大学院の非常勤講師を兼任しながら、遺伝子や脳内ホルモンなど最先端の仕事を手がける。その後、書籍出版や講演をはじめ、企業はもちろん教育分野でも活躍中。『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム刊)ほか、著書多数。
脳から分泌されるメラトニンという睡眠物質が加齢により減少するため、年齢を重ねると睡眠時間が短くなります。しかし、大切なのは睡眠の質。質の高い睡眠をとることは認知症予防にも効果があります。また、深い睡眠(ノンレム睡眠)の質は、加齢によって悪くなるというわけではないので、脳老化予防には〝時間よりも質〟にこだわった睡眠をとることが大切なんです。ただし、睡眠時間が短すぎるのは禁物!
【1】30分未満の昼寝
30分未満の昼寝習慣は、認知症リスクを下げるといわれています。ただし、60分以上の長すぎる昼寝は×。
【2】いびきの改善
いびきは睡眠時無呼吸症候群の可能性も。横向きで寝ると軽減することが。専門医に相談することも大切。
【3】歯を大切にする
歯が少ないと睡眠時に歯を嚙み合わせることができず、気道が閉まりやすくなり呼吸の妨げになることが。
【4】日光を浴びる
朝から昼にかけて日光を浴びると脳の松果体で睡眠物質のメラトニンができるため、睡眠の質が高まります。
【5】体温を下げる
体温が下がると眠気が発生するので、就寝の1~2時間前に入浴すると、就寝時に寝付きがよくなります。
【6】寝酒をやめる
飲酒は脳をリラックスさせるものの、深い睡眠(ノンレム睡眠)を邪魔する傾向があるので、毎晩はダメ。
【7】無理して眠らない
無理して寝ようとすると脳が緊張して悪循環に。本を読んだり好きなことをして脳のリラックスを第一に。
食欲や性欲などの〝生理的欲求〞が減ったという実感がある人も多いのではないでしょうか。これは、やる気を生み出すドーパミンという脳内ホルモンが加齢とともに減少しているからなんです。ただ、欲があったほうが長生きするという傾向があるのも事実。ドーパミンを増やす方法は、体を動かすこと、笑顔でいること、好きな人の写真を見たり好きな音楽を聴いたりすることなど。実は手軽なものばかりです。スポーツ観戦も◎。まさに、推し活こそ脳活につながるといえそうですね。
孤独感と認知症発症の可能性は比例しているもの。一人で生きるよりも周りの人とつながりを感じて生活するほうが、脳の視床下部から幸せホルモン(オキシトシン)が出て脳も活性化され、認知機能が高まります。また、新しい人間関係づくりに挑戦することも脳を活性化させる方法のひとつ。とはいえ、数が多すぎると脳が処理しきれないので、〝数よりも質〟を重視するのもポイントです。年齢差や性別を問わず、腹を割って話せる親しい人の存在を大切に。
同じことでケンカをしたり、共通の会話もなくてウンザリしていたり。夫婦関係に悩む人は少なくありません。しかし、脳活のためには夫婦関係を良くすることも大切なんです。おすすめなのが、夫婦で非日常的なことを一緒に体験すること。近所のスーパーへ買物に行くとかではなく、新しいことに挑戦したり、いつもやらないことを一緒に体験するのがポイント。あとは、記念日をきちんと祝うことです。〝もうそんな歳じゃないから…〞なんてセリフは、脳にも良くないNGワードです。
大人になると我慢することが多くなるものです。でも、こうあるべきだと自分自身に制約をかける人よりも、好きなことをしている人のほうが長生きしやすい傾向にあります。なぜなら、脳は制約をかけるとドーパミンが出にくくなってしまうからです。できる限り脳にストレスを与えないことが大切なので、真面目な人やガンコな人ほど、〝好きなものは体が欲しているもの〞くらいに考えて、ときには〝好き〞を優先しましょう。〝自由〞こそ脳の若さを保つ秘訣だということを忘れずに。
よく嚙むことには、運動機能や健康機能の向上、やる気が出る、記憶力が高まる、認知症を防げる、免疫力を高めるなど、多くのメリットがあります。なかでも〝やる気が出る〟というのは意外な効果ですよね。実は、咀嚼することでドーパミンがよく出るようになるからなんです。最近、やる気が出ないという人は、よく嚙むことを意識するのが◎。軟らかいものをよく嚙まずに食べていると、脳の老化が進みますよ!
脳老化を防ぐために、脳の活性化はとても大切です。しかし、過剰な活性化はNGなんです。なぜなら、脳老化は防げるといっても、体は若い時と同じではないからです。加齢とともに情熱ややる気が薄れるのは、やりすぎにブレーキをかける〝休め遺伝子〟のせい。自分に無理をさせない防御機能でもあります。繰り返しになりますが、活性化は大切ですが、何事にもバランスが大切だということを心得てくださいね。
牛乳や肉などの動物性タンパク質の中には、ドーパミンの原料〝チロシン〞というアミノ酸や、セロトニン(幸せホルモン)を生み出す〝トリプトファン〞というアミノ酸が含まれています。これらから必要なアミノ酸を取り込めなくなると、脳内物質を作ることができなくなり、認知機能の低下を引き起こして脳の老化が加速してしまう可能性があるのです。つまり、肉には脳の老化予防に必要な栄養素がしっかり入っているんです。コレステロール値が高い人は注意して摂りましょう。
よく嚙むことや、動物性タンパク質の必要性のほかに大切なのが、若返り遺伝子※を活性化させる栄養素です。下記の7つの栄養素を食事やサプリメントなどで上手に取り入れることで、脳の活性化が期待できるので参考にしてみてください。
※老化を防ぐためのサーチュイン遺伝子
【1】ナイアシン
かつお節に多く含まれていて、かなり強く若返り遺伝子を活性化させる栄養素。舞茸やたらこにも。
【2】エラグ酸
美白効果も期待できるポリフェノールの一種でイチゴやブラックベリー、ザクロなどに含まれます。
【3】レスベラトロール
ワインなどに含まれるポリフェノールの一種。活性化には多量が必要なので、サプリでの摂取が◎。
【4】プテロスチルベン
ブルーベリーやオメガ3系のオイルのほか、青魚やマグロのトロなど。こちらもサプリでの摂取を。
【5】EPA・DHA
サバやアジなどの青魚に多く、〝頭がよくなる脂〟の異名も。魚に多く含まれているのが特徴です。
【6】ビタミンC
一日1gの摂取が理想。ビタミンC含有量がかなり多いアセロラからの摂取がおすすめです。
【7】ビタミンD
キノコ類に含まれるビタミンD2と、あん肝、しらす干しなどに含まれるビタミンD3があります。
脳の活性化には運動は不可欠。せっかくなら効果が高いものがいいですよね。そこで、おすすめなのが、複数の動きを同時にする〝コーディネーション運動〞です。この運動には、リズム能力やバランス能力など7つの要素が詰まっています。立って手でボールをドリブルすることが代表例なのですが、脳の認知機能を上げる究極の運動が、ダンスです。ペアで行うダンスはより効果を発揮。運動が得意ではない人は、ボードゲームや楽器の演奏などがおすすめ。習慣的に行う人は認知症のリスクが少ないことがわかっています。
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2023年『美ST』7月号掲載
イラスト/香川尚子 取材・編集/鎌田貴子
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