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美肌の湯 その21 北海道・上ノ湯温泉 銀婚湯 編集/井上 智明

やっとこの世界に帰ってこれました。

次号11月号(9月17日発売)ではまたお気に入り温泉を紹介しているのですが、そこのプロフィールで「温泉ブログ更新中」なんて書かれています…でも、5カ月以上更新していませんでした…す、すいません。 さて、最近の僕は梅雨がちょっと楽しくなりました。なぜなら6月になると行きたくなる温泉ができたから。それは梅雨のない北海道、函館から車で2時間弱のところにある、上の湯温泉・銀婚湯というところです。実はずっと前から気になっている温泉にもかかわらず、今まで行ってなかったのは、函館まで行くだけでも大変なのに、そのうえそこから一日に何本もないローカル線にひたすら揺られるか、レンタカーを借りて頑張るかしないとたどり着かない、なかなか難易度の高い地にあるのです。 でも、とうとう思い切ってやってきました。飛行機を格安会社の、しかも早割でなるべく経費を抑えて念願の函館へ! 早朝からいきなり海鮮丼に舌鼓をうち、函館山に登り、物産館でお土産を買いまくって宅配にして、ラーメンも平らげて、きっちり函館満喫後に12時過ぎのローカル線に乗りました。 ガラ空きの電車のボックス席を独占し、足を投げ出してウツラウツラしながら、函館本線落部駅で下車。駅員さんもいない小さな小さな駅にお宿の送迎車が止まっています。旅行っぽい人はどう見ても僕だけ、お迎えのおじさんも一発で、「井上様ですよね?」と声をかけて下さいました。車に揺られて10分少々。緑いっぱいの木々に囲まれた宿に到着です。

緑の囲まれた宿の入り口。こういう宿はだいたいいい宿です。

木造りの宿ですが、空間が広く取られていて、館内は素足で歩ける気持ちよさ。最近増えましたよね、素足で過ごせる宿。あの旅館独特のスリッパが若干苦手な僕と知ってはうれしい限りです。 通された部屋も、木々に囲まれて風通しがよくって心地いい。 この宿、きっといい宿に違いない、って着いて5分で確信できました。 お茶を飲んで、ぼんやりしている時間もそこそこに、このお宿で一番楽しみにしていた貸切露天風呂に向かいます。ここのお宿は、敷地内の森の中にタイプの違う貸切風呂が点々と5つもあり、この時期新緑を楽しみながら散策しつつ湯めぐりをするのが楽しいんです。しかも、予約制ではないので、早い者勝ち、フロントで、空いてるお風呂のカギをもらってからそこに向かうシステムです。そりゃあわてるわけですよ。まずは、宿から歩いて7~8分、つり橋を渡っていく川べりの「どんぐりの湯」へ。

すぐ下が川になっている「どんぐりの湯」。お湯の色もいい感じ。

お湯は、茶色く濁ったナトリウム―塩化物・炭酸水素塩泉。もちろん源泉かけ流しです。石造りでそこまで大きいお風呂ではないですが二人で入るにはちょうどいいです。(あ、僕は一人ですけど)川の流れをぼんやり眺めながら、い~い具合にあったまったら、緑のトンネルの上から差し込む木漏れ日を気持ちよく見上げながら、いったんカギを返しにフロントへ。次に入りたいお風呂が空いてるかを確認して、またお風呂に向かいます。この散歩している時間がちょうどいいインターバルになって、湯当たりせずに続けてお風呂に入れるのです。

散歩してると、こんな看板があります。

今度はつり橋を渡って、反対側、もっと緑の深いところを10分近く歩いていく「トチニの湯」へ。ここは、大きな丸太をくりぬいて作ったお風呂と、川べりの露天のセット。いそいそと丸太風呂に入ろうとするとなんか、お風呂の水面少し上にグレーっぽい靄が……「?」と思いつつも、「お風呂♪お風呂♪」と思って入って数秒後…「わあああ!」蚊の大群に襲われました!!靄だと思っていたものは蚊の大群の塊だったんです! でも、ここは「根性♨」と思って少し我慢してみたのですが、さすがに辛すぎて2分くらいで退散…丸太風呂に入るって憧れのシチュエーションだったんですけどね。しかも、ここのお湯はさっきと同じナトリウム―塩化物・炭酸水素塩泉ながらも、成分はより濃厚でよりいいお湯だったので・・・。

蚊に襲われながら、頑張って撮った一枚。

残念。仕方なく成分は同じの川べりのお風呂(こっちにも蚊はいたがそこまですごくなかったので手で仰ぎながら入浴)に入って、あちこち掻きながら、でも楽しく散歩をしてまた宿に戻りました。 かゆみが大体取れたころ、まだ晩ごはんまで少し時間あったので、今度は宿の大浴場+内風呂へ。ここはどちらも広いです!泉質はちょっと違ってナトリウム―塩化物泉。内湯は少しだけ熱め、露天はちょっとだけぬるめでこっちの方がお好みです。夜中に露天風呂のほうで、改めてかなり長い時間ぼんやりしてしまいました。 ここの泉質はどれも皮膚病に効果ありと言われるほどの美肌の湯。宿のHPにはやけどの跡もなくなるほど、と書かれています!しかし、普通の宿なら、この内湯と露天のセットで十分なのにさらに森林浴付きの貸切風呂が5個も!もう夢のような温泉天国です。 いや~本当に温泉を満喫しきった後で、おなかをすかせて夕食に。 派手さはないのですが、お刺身も野菜も新鮮、日本酒がすすみます。(いつもすすんでますが…)ここの名物は「地鶏鍋」。鶏がまるごと、とは言わないまでも普通ののもも肉とかだけではなく、内臓部分、砂肝、レバー、金柑なんかも入っている本格的なもの。量もたっぷり。しかしですね、僕の唯一と言ってもいいほど苦手な食べ物が「レバー」なのです(涙)まさか、北海度の秘湯に来てこいつに出合うとは思ってもいませんでした…もしかしたら、ここのは食べれるかも、なんて思って一個食べてみたのですが、やっぱりだめ。残りは、お鍋の「だし」となってしまいました。ごめんなさい。

問題の?鶏鍋。一人分とは思えないボリューミーさ。

でも、鶏鍋についていた生卵は黄金色に輝いていたし、かぼちゃのスープもほっこりおいしかったし、全体として、とっても満足できる夕食でしたよ、いやホントに。 ぐっすり、本当にぐっすり眠った後は、早起きしてまた森を散歩しつつ、温泉♨ 朝のクリアな空気の中、深呼吸なんてしながらぼんやり森林浴を楽しみながらのお湯めぐりは何とも言えない幸せ感。そして、ほどよくおなかがすいてきたところで、朝ご飯です。こちらは野菜もしっかり、日本の王道の和食。ここでの出色は「みみのり」のお味噌汁。みみのり、とは地元の海で採れた海草で、厚手のしっかりボリューム感で、これだけでお椀いっぱいです。東京ではもちろん食べたことのない類で、おいしいのです。

解説付きの「みみのり」。朝から幸せ。

と、最後まで満喫…と思っていたのですが、まだ駅への送迎バスの時間まで1時間以上ある!と気づき、再び宿の大きな露天へ。

こんな感じで可愛く佇んでいるお風呂もあります。
どんだけ貪欲やねん!と自分で突っ込みを入れつつ、またまたローカル線で函館に戻ったのでした…

さて、ここで締めるのがいつものパターンですが、今回は函館に向けてローカル線に乗った後の僕、というおまけがあります。実は、このあとにお楽しみが待っていました。 函館の一つ手前、五稜郭駅で下車して、大急ぎでタクシーに飛び乗り、予約していたお寿司屋さんへ。あの、旅先でタクシーに乗る、とか、ランチを予約する、とか普段は絶対やりません。でも、このお寿司屋さんに何となく、でもどうしても行かないといけない気がしたんです。函館でおいしい寿司屋さん、どこだろうって調べていた時に出ていたのが、この「梅乃寿司」。ガイドブックにはまず出ていないし、ネットでの情報も少ないし…でも、なんかいい店の予感がするんです。で、予約したほうがいいようなことが何かに書いていったので、一応気軽に電話してみました。すると「…13時半ですか、ラストオーダーがその時間なので、もう少し早いほうが」とちょっと困ったような返事。でも、ローカル線でとろとろ行くので普通に乗って、路面電車に乗り換えて…なんて間に合いません!で、駅からタクシーを飛ばすことにしたのです。一度行こうと決めたら、もう後には引けない性格なもので。

13時10分、ちょっと迷いつつも無事お店に到着。こじんまりしていますが、清潔感あふれる店内に期待は高まります。「いらっしゃい!」たぶん僕と同じくらいか少し年下の大将が威勢よく迎えてくれます。…寿司屋のカウンター、実はちょっと苦手ですが、今日は大丈夫。お昼のおまかせ3150円也をお願いしました。全部で、9?10?のネタが出てきます。びっくりしたのは、小皿にお醤油という寿司屋のデフォルトセットがないこと。「うちは素材に合わせて一番おいしくいただける、塩だったり、柑橘だったりが上に乗せてあり、お醤油を付けずに一口で食べられるようにしてあるんです。お醤油が合う場合はジュレにして上に乗せています」シャリ小さめのうえに、採れた新鮮なネタが、それがよりおいしく感じられる大将の解説付きでいただけます。たとえば、ウニ「これは函館の市場に明日出る予定のウニです。つまり、明日になるとミョウバンにつけられてしまう、その前の本当に新鮮なウニなんです」。中トロ「青森で採れた300キロのマグロを10日間寝かせました」、ね、おいしそうでしょ。函館名物のイカももちろん透明な状態でしかもウニ!が乗っかって出てきます。ボタンエビもおいしかったなあ。 ふだん、僕は人見知りで面倒くさがりなので、お店の人と会話なんてほとんどしませんが、今回は大将と話弾みました。函館で好きなラーメン屋さんが一緒だったりして。しかも、結構有名な行列店ではなく、かなりマイナーな、おじさん夫婦が二人でやっている小さなお店。びっくり。しかし、これで3150円は東京では考えられません。うまい!幸せ!

実は、このあと泊まった函館市内の某宿の食事が相当いまいちだったりして、今度はそこは泊まるだけにして(お風呂はとてもよかったので)、夜はここにきて日本酒と一緒に楽しみたいな、と思った次第です。ということで気持ちよくお店を後にしたのでした。 ということで、すっかり大好きになった函館の街、温泉も食事も、「なんだか居心地がいい・気持ちいい」って、とても、というか一番大切なことでは?と思ってしまいました。 実際、その後かなり長いこと、体調よく・機嫌よく過ごせたし、何せ、来年の函館はどこをどう回ろうって、早くも思いを巡らせているのです。旅って、予定を考えているときこそ楽しいって言いますしね。

●銀婚湯
北海道二海郡八雲町上ノ湯199
函館本線落部駅より、送迎バスで15分くらい
☎0137-67-3111
www.ginkonyu.com/

梅乃寿司
umenozushi.co.jp/

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