HEALTH

美肌の湯 その20 岐阜県・新穂高温泉 野の花山荘 編集/井上 智明

今回は珍しく間をおかずに書くことができたこの連載もめでたく20回目となりました。

記念すべき、20回目は奥飛騨温泉郷にある、「野の花山荘」です。ここは、もともと近くにある”予約の取れない人気旅館”としておなじみ、「槍見館」の別館として割と最近、約3年前にできたお宿です。

さて、温泉についてよく聞かれる質問は「どうしていつも一人で温泉に行くんですか?」です。

簡単に言うと、「ひとりになりたいから」です。「そんなこと言っても、家に帰ったらいつも一人でしょ?」というツッコミが返ってきそうですが(42歳独身ですので)、そういう一人じゃないんです。家にいても、仕事の、家でやるべきことの、そして、いつもの部屋の中に色濃くある”日常”のいろんなわずらわしいことから逃れられないじゃない? そういうのが一斉にクリアにできる、物理的というよりもメンタル的にまわりの邪魔者を追い払える「ひとり」のが僕にとって「温泉ひとり旅」です。と言っても、最近は通信網の発展で、温泉に行っても仕事の電話やメールから逃れることは難しくなりました。でも、逆に言えば、「ケータイさえ持っていれば、仕事のたいていの案件に対処できる」ってこと。おかげで、「よしっ、出かけてしまえ! 仕事はケータイで何とかなるっ」と思いきれるようにもなり、最近はますます温泉に出かける機会が増えました。ありがたい話です。

…と長々と自分の話をしましたが、今回はそんな「ひとりになりたい」僕が、その全く逆とも言えるコンセプトの宿に泊ってしまった話なんです。

それは、「カウンターキッチン」。そう、あのシェフが料理を作っているシーンが生で見られて、となりのお客さんとの距離も近い、必然的にまわりの人とのコミュニケーションが必要となってくるあの、カウンターキッチンです。巨大温泉ホテルの朝食ビュッフェや超高級旅館のすしカウンターだとたまにありますが、ここは奥飛騨の山奥、9部屋しかないそこに泊まっているお客さんがほとんど一列に並べるカウンターなんです。まあ、行く前は珍しいし、なんかできたてをアツアツで楽しく食べられる!くらいで気軽にしか考えていなかったんです。何せ平日だし、客もそんないないだろうし。いつも通り、一人で酔っ払ってればいいや。

しかし! 6時にお食事処にノロノロと向かうと、もうすでにカウンターはほぼ満員!

これが件の「オープンキッチン」。手だけ見えてるのが名物おじさん。

ひるむ僕も、勧められるがまま、空いている1席につきました。隣の人との間隔も案外近い。どうしよう… カウンターのセンター付近には、この宿の名物おじさん(たぶん番頭さん)が陣取って、料理の説明とサーブをしながらも、おもしろトークさえもこっちにサーブしてきます。(自分が4回結婚してる話とか、モテたいがゆえに黄色いフォルクスワーゲン乗りまわしてる話とか)あまりにマイペース、でも聞き逃せない内容に思わず一緒に相槌を打っているうちに、となりの席の人とも打ち解けて、人見知りの僕でも「最近行った温泉でどこがよかった?」なんて、温泉談義にワイワイと花を咲かせることができました。

岩魚のカルパッチョ地のものを使いながらもオシャレなものが次々と目の前ででき上がります。

料理も見えるところで板さんたちがテキパキと仕事をしてできたてホヤホヤを運んできてくれるのを浴衣でいただくのはなんだか新鮮です。特に、飛騨牛の鉄板焼き!目の前でじゅうじゅう焼けていく様を眺めているのは本当にシアワセ❤

飛騨牛❤ニンニクチップと一緒にいただきます。

ということで、温泉はひとりの時間を堪能するもの、という僕の思い込みは楽しく打ち砕かれたのでした。今さらですが。友達とかと行っても、基本的にあんまり口きかずに温泉入ってるもので。で、勝手に酔っ払ってすぐ寝てる。でも、新しい温泉の楽しみ方発見、です。いつもじゃなくても、こういうコミュニケーションから楽しい生まれる空気感は大切にしたいですね。あ、仕事と一緒か。

長々と「カウンターキッチン」ネタで引っ張りましたが、ここお風呂もすっごくいいんです。

奥飛騨なだけあって男性用・女性用と混浴の露天風呂からは槍ヶ岳はじめ、4月でまだ雪の帽子をかぶった北アルプスの山々がド~ンと鎮座している姿が拝めます。そして、貸切できる露天風呂は木々の中にたたずんでいて新緑の季節なんかすごく気持ちよさそうです。

露天風呂に向かう道すがら、ふきのとうを発見。天ぷらにして食べたい。

お風呂のはしごの間に木の香り豊かな暖炉のあるロビーでぼんやりしているのも至福のとき。

お風呂上がりはここでぼんやり。
あと!和犬好きにはたまらない、玄関近くにいる3匹の柴犬たちと戯れるのに時間を忘れたり、一人でいて部屋にこもっているのはもったいないくらい楽しいこと満載なんです。

お風呂上がりはここでぼんやり。

朝食で再びカウンターキッチンに座って今度は釜炊きのツヤつやごはんをよそってもらいながら、大規模旅館でなくても、大人数で行かなくてもエンターテインメント型の温泉の楽しみ方ってあるんだな、としみじみ考えたのでした。もしかしたら、これって雑誌作りにも応用できるのかもしれないな、なんてつい仕事と結び付けてしまったりして。帰りに僕の車が見えなくなるまでずっと手を振ってくれた名物おじさんにちょっとキュンとしながら、今度は友達とかと行きたいな、なんて珍しくも考えたのでした。

●奥飛騨温泉郷 新穂高温泉 野の花山荘
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷新穂高温泉
☎0578-89-0030
1泊2日¥13,800~
中央道松本インターから車で90分
nono87.jp/index.html

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