HEALTH
更年期を迎えて、かかとの痛みを訴える女性は少なくありません。更年期世代に起きるかかとの痛みは、女性ホルモンのエストロゲンが減少して起こる更年期障害が原因の場合もあります。今回は更年期関連の整形外科疾患を専門とする、ゆりクリニックの矢吹有里先生に、詳しい症状や対処法、最新の治療法について解説していただきました。更年期予備軍の方も予備知識をつけておくことで、上手に症状を乗り切れますよ。
男性の4倍とも言われる、女性の足にまつわるトラブル。女性ホルモンや骨密度、筋力が激減する更年期世代には、痛みや変形といった足のエイジング症状も増えやすくなります。
40代から50代の女性に多い足裏部分に出るズキズキする痛みは、更年期や加齢と深い関係があります。じっとしている時には痛みはなく、体重がかかった時に痛むのが特徴。朝痛みを感じ、動いているうちに徐々に痛みは軽減しますが、夕方になって歩行量が増えると再び痛みが増してきます。最初は「ちょっと痛いかも」というくらいの痛みですが、我慢していると激痛に。一日の終わりに歩くのが困難なほど痛む場合もあります。
東京女子医科大学卒業。同大学卒業後、慶應義塾大学整形外科学教室に入室。その後、各地の急性期病院で勤務。東京都済生会中央病院整形外科医長を経て、2017年に「ゆりクリニック」を開院。女性のための整形外科として、骨粗しょう症をメインに更年期障害などホルモンバランスによる女性特有の整形外科疾患を中心に診療を行っている。
更年期時期に寝起きの一歩で足裏に強い痛みが走る場合は、足底腱膜炎の可能性があります。
足底腱膜というのは、かかとの骨から足の指の付け根にかけて、繊維状の組織である腱が膜のように足の裏に張り巡らされているもののこと。それと骨の付着部で炎症が起き、痛みが出る状態を足底腱膜炎と言います。症状が進行すると「踵骨棘(しょうこつきょく)」というかかとの骨に棘ができてしまうことも。
20〜30代の人にはほとんど発症しない病気で、40代以降に特に多い病気です。ホットフラッシュなど他の更年期症状がなくても足裏に痛みが出ることがあります。普段履く靴やスポーツの影響で、男性にも起こりうる病気です。
足底腱膜炎は身体の土台である足の骨格の崩れにより発症します。更年期で足底腱膜炎を発症する場合、最大の原因はエストロゲンの減少です。更年期に入りエストロゲンが急激に減ると、関節を支える靭帯や腱が緩みます。骨同士をつなぐ靭帯や腱がずれることで足の一部に荷重がかかってしまい、歪みの大きな場所に痛みや変形が生じやすくなるのです。
そもそも日本人の7割が扁平足だと言われていて、加齢による筋力の低下によってさらに足のアーチは崩れてしまいます。普段からハイヒールを履く習慣のある人は、若い時から蓄積されてきたダメージが痛みの進行に拍車をかけます。以前より足が大きくなったという人は要注意。足のアーチ構造が弱まって歪んでしまったサインです。外反母趾や内反小趾、魚の目やタコができたり、患部を庇おうとする歩き方によって膝の痛みや腰痛が起きる場合もあります。
かかとの痛みは更年期症状に加えて、整形外科疾患やその他の疾患が原因となっている場合もあります。ここでは、「更年期に起因するかかとの痛み=足底腱膜炎」の他にも足に症状が現れる病気の代表例をご紹介します。これらの違いは整形外科を受診すればわかることがほとんどです。
女性の100人に1人が疾患していると言われるリウマチは手のこわばりが特徴的な症状ですが、人によって足に痛みが出る場合も。その場合、足裏ではなく足の関節などに痛みを感じます。最初にかかとに痛みが生じるケースは稀です。
椎間板ヘルニアによる神経痛はお尻や腰、足に症状が出やすい特徴があります。かかとのあたりに痛みが生じることもありますが、体重がかかった時ではなく、じっとしていても痛むのが特徴。
痛風で痛くなる箇所として一番多いのは、足の親指の付け根です。アキレス腱が骨につく部分にも症状が出ることがありますが、足裏に出るケースは稀。痛風は関節炎や滑液包炎といって、関節がある部分に尿酸の結晶がたまることの方が多いためです。女性で痛風を発症することは少ないですが、70代や80代と高齢になってから症状が出る場合もあります。
更年期のかかとの痛みには、足底腱膜の柔軟性を保つストレッチが一番効果的です。ここでは、リラクゼーション効果もあるおすすめのストレッチを3種類ご紹介します。また、ストレッチ以外にも食事やソックスなどで予防する方法も解説します。
アキレス腱や足底腱膜を伸ばすストレッチをすると、血流がよくなって炎症を抑えるのにも効果的です。即効性はないですがとても大切なので、時間を見つけて行ってください。発症した人のうち6割くらいはストレッチで症状が改善したというデータも。再発防止にもなります。
イスや床に座った状態で、まずは足のつま先をピンと伸ばし、足の甲をグッと伸ばすようにします。次に、今度は足裏を前に見せるように、ゆっくりと反らします。この時、足裏がしっかり伸びるのを意識しましょう。足首を動かしづらい方は、両手でつま先と足首を持って反らすと取り組みやすいです。10回を1セット、1日3セット以上を目安に行いましょう。
更年期のかかとの痛みは、足裏運動や姿勢を矯正・改善してあげることが大事。失われたアーチを取り戻し、かかとや足の付け根にかかる荷重を改善することができます。
まず、タオルを床に広げて、そのタオルを足の指で掴んで手繰り寄せます。この運動は、足指の働きや土踏まずのアーチを支える組織に効果があっておすすめ。タオルを掴んでは離しを繰り返し、1セットを10回、1日2セットを目安に行います。外反母趾や浮き指など、足トラブルのリハビリにも有効です。
足裏を正常な状態に戻すには、筋肉が弱まりだんだん内側に入ってしまう親指の位置をなるべく外側に戻す、足の指開き運動がおすすめ。手で行うじゃんけんのように足の親指から小指までを目一杯大きく動かすことで、かかとの痛みの予防や改善に効果があります。日常生活で動かす機会がないので最初はなかなか難しいですが、テレビやスマホを見ながらでも暇な時に足を動かす習慣をつけることが大事です。
フローリングを裸足で歩かないことも大事です。子供の場合は裸足で過ごすと足裏が刺激されるとも言いますが、更年期世代は足のアーチが崩れやすいので、素足で硬い板を歩くのは危険。スリッパやルームシューズ、靴下を履いた方が足には優しいですね。中でも5本指ソックスは足裏の筋肉や機能、指の感覚を自分の体に教え込んでくれるのでとても効果的です。
実は、最近女性に人気のある靴底の薄いバレエシューズも足にかかる負担が大きいのでおすすめできません。ヒール靴は足の力が弱いと足底腱膜に負担がかかるので、痛みがある時には控えた方がよいでしょう。痛みのある間は、しっかりした靴底で硬すぎずクッション性の高いもの、アーチサポートのあるスニーカーやウォーキングシューズを履くことをおすすめします。痛みの緩和には、かかと自体につけるヒールカップや中敷き(インソール)の活用も効果的です。
更年期のかかとの痛みに大きく関係する腱や靭帯の組織はコラーゲンでできています。そのため、予防や改善にはコラーゲンを含むたんぱく質を積極的に摂取するのがおすすめ。また、ビタミンCや女性に不足しやすい鉄分を一緒に摂ることも大事です。
コラーゲンは腱や関節などを構成する繊維状のたんぱく質です。丈夫な腱や筋肉、靭帯を育み、関節の滑らかな動きをサポートします。体内のコラーゲン量は加齢とともに減少するので、健康な身体作りのためにも意識的にたんぱく質を摂取することが重要です。1回の食事で吸収できるたんぱく質の量は40〜50g程度なので、毎食必ず摂取することをおすすめします。
動物性食品なら、手羽先や骨付きの魚、牛すじ、軟骨、豚ばら肉。植物性食品では、湯葉、高野豆腐、焼麩といった食材にコラーゲンが豊富に含まれます。食べたコラーゲンがそのまま腱や軟骨などになるわけではありませんが、アミノ酸に分解される一歩手前のコラーゲンであるコラーゲンペプチドが、そのままの形を保って全身をめぐり必要なところに届くことが報告されています。
コラーゲンは皮膚や腱、骨の強度を保っています。そのコラーゲン繊維の生成には、ビタミンCの存在が不可欠です。人間は体内でビタミンCを作れません。そのため、成人1日あたりのビタミンC摂取推奨量は100mgと設定されています。ビタミンCは水溶性なので、水に溶けやすい性質が。生野菜で摂取する以外にもスープや蒸し野菜といった調理法だと、より効率的に摂取することができます。
特に閉経前でも生理がまだある女性は、知らない間に“隠れ貧血”になっている可能性があります。健康診断での貧血検査では末梢血の中のヘモグロビンの値が正常かを調べますが、それとは別に、体内の貯蔵鉄と呼ばれるフェリチンの不足が隠れ貧血です。実は、このフェリチンが減っている閉経前の女性がとても多いのです。貯蔵鉄は腱や肌、骨などを作る材料になるので、不足すると丈夫でしなやかな腱が作られなくなります。
フェリチンを蓄えるためには鉄分をよく摂取することが大事。月経のある女性の場合、1日あたりの鉄分摂取量の目安は約11mg。特に、レバーや赤身肉、魚介類といった動物性食品に含まれるヘム鉄は吸収率の良い鉄分なのでおすすめです。
かかとの痛みには更年期障害の治療に使われる漢方薬を用いる場合があります。更年期の漢方薬には当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸と3種類あって、その人の体質や症状に合うものを処方します。
自分に合う漢方薬を知りたい場合は漢方専門薬局や、漢方を取り扱う医師に相談してみてください。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、体の冷えや貧血症状の強い虚弱体質の人に処方される漢方です。月経異常や生理痛、更年期障害に用いられることも。血行を促すと同時に水分代謝を整える作用があります。ホルモンバランスを整えることでホットフラッシュや足腰の冷え、肩こりや腰痛、頭痛や手足のむくみといったさまざまな不定愁訴を改善する効果が期待できます。
加味逍遙散(かみしょうようさん)は、標準以下の体力レベルでイライラしやすい方、怒りっぽくて気持ちの変動が激しいタイプの人に処方されやすい漢方薬。女性が不調を感じやすい「肝(自律神経)」のバランスを整えてくれます。不足しがちな「血(けつ)」を補って、更年期によるホルモンバランスの乱れにともなう疲労感、頭痛や頭重感、肩こりやのぼせ感といった不定愁訴を改善する効果があります。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は比較的体力のある人向けの生理不順や更年期障害、頭痛、肩こり、のぼせなどに適応する漢方薬。どちらかと言えば、体格がしっかりしていて赤ら顔の体質がある女性に処方されます。東洋医学では鬱血や血行障害は「瘀血(おけつ)」と呼ばれますが、桂枝茯苓丸は血行を改善して熱のバランスを整えることで、瘀血の症状として出るのぼせや手足の冷えを鎮めます。子宮内膜症や筋腫など子宮の炎症にも適していると言われています。
足裏に痛みがある場合、体重がかからない状態で毎日過ごすことは難しいので、なるべく早めに病院にかかることが大事です。悪化しないように靴選びの工夫やインソールを使用する、ストレッチ運動をするなどの対処を早期に行わないと、痛みが慢性化してなかなか治りづらくなります。慢性化する前に、急性期の間に治療をすることが重要。違和感を覚えたらすぐに受診していただくことをおすすめします。
かかとに痛みを感じた場合、病院は何科がベスト?接骨院や整体でも大丈夫?最初に受診すべき診療科や、具体的な治療方法をお伺いしました。
基本的には整形外科の受診をおすすめします。整形外科ではレントゲンを撮影し、扁平足など足の形態を確認したりかかとの骨に異常がないかを調べます。その上でリハビリテーションや物理療法などの治療、装具療法としてかかとに負担を和らげるインソールを作ることも可能です。
婦人科では、更年期症状について相談してみるとよいでしょう。更年期症状の治療をすることで症状が改善する場合もあります。整体や接骨院は身近で行きやすい印象ですが、まずは整形外科での診断を受け医師に相談してからの方がよいでしょう。
整形外科で足底腱膜炎と診断された場合、主に炎症を抑える外用剤、ストレッチを中心としたリハビリ、炎症を抑える注射、装具療法、体外衝撃波治療などの中から最適な方法を選び、治療が行われます。それぞれの特徴をまとめて紹介します。
ストレッチや筋トレ、足底腱膜へ負担がかかる使い方の矯正を理学療法士と一緒に行うリハビリテーションは、ステロイド注射のような即効性はありませんが、中・長期的に見るともっとも効果があると考えられます。特に、下肢後面の硬さ(柔軟性低下)や、足指の機能不全、偏平足などの足部の形態異常などを評価し、その人に合ったアプローチを行います。
必要に応じて、テーピングなどを行い患部の負担軽減を目指します。
炎症を抑える目的で行うステロイド注射は、炎症部分の患部に打つと劇的に痛みが緩和することがあります。ただし頻回の注射は腱を弱くしてしまう副作用を起こすことがあるため、2~3回程度にしておくのが標準。また、痛みが再発しやすかったり、痛みが瞬間的に良くなるため根本治療とはなりづらいといったデメリットも。この治療を受ける場合は、整形外科担当医とよく相談のうえ決めるとよいでしょう。
装具療法とは、足底の歪みやアーチの形状を補正、改善するために中敷を用いる治療法です。医師の診断にもとづいて理学療法士や装具業者が個人の足にあったインソールをオーダーメイドで作成します。中敷が足への衝撃を吸収して、足底腱膜への荷重を和らげます。オーダーメイド以外にも、かかと自体につける市販のシリコン素材のヒールカップや中敷もあります。ご自身の生活に合わせて選択すると良いですね。
最近保険適用になったもので、「体外衝撃波」という衝撃を与えて痛みを緩和させる治療法があります。もともとは腎臓の結石を体外からの衝撃で破壊する治療法でしたが、それを整形外科に応用。衝撃で痛みの物質を散らし、成長因子を放出させて腱の修復を促進させるという方法です。半年間、他の治療を試しても改善されなかった場合に難治性足底腱膜炎と診断されると保険適用の対象になります。機器を導入している整形外科で受けることができます。
閉経しても痛みはなくなりません。更年期は閉経の前後10年間ですが、50歳が平均の閉経年齢だとすると、45歳頃から徐々に女性ホルモンのエストロゲンが減っていきます。エストロゲンには関節や腱を柔らかく保ったり血管の柔軟性を保つ役割がありますが、閉経後はほとんど分泌されなくなるので、50代や60代になっても痛むことがあります。慢性化すると治るタイミングが遅くなるので、完治しづらい病気の一つです。
一方で、一生涯痛みが出ない方もいますし、どこかのタイミングで足底腱膜炎が治ることもあります。閉経後にホルモン補充療法でエストロゲンを補っている人は、他の更年期症状も落ち着いて足の痛みも出にくくなると思います。
海外では足の専門医がいるほど、足の健康は重要視されています。足底のエイジングサインを見逃さず、更年期由来の足裏トラブルに気づいたら、婦人科と整形外科の両領域に精通したクリニックを探して早めに治療を受けましょう。
画像提供/PIXTA 取材/今西香月 編集/永見 理
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