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「セックスレスだけど子供が欲しい」。年齢を重ねて妊娠・出産のタイムリミットが迫っていることを感じていながらも、パートナーとのセックスレス問題の改善に取り組む余裕がない――。そんな場合、いきなり不妊治療を始めることはアリなのでしょうか。今回は医療法人社団暁明会井上メディカルクリニックの理事長/院長である井上憲先生に、お話を伺いました。
夫婦の形・意義・価値観は、以前と比べて明らかに変わってきています。昔は「寿退社」という言葉があったように、就職→恋愛→結婚+退社→出産→子育て(専業主婦)というのが女性のライフスタイルの主流でした。しかし近年は、結婚してからも仕事を続けることは普通です。仕事をしながらライフスタイルに合った時期に妊活し、保育施設や親による子育てのサポートを得て職場復帰するというのが一般的になりつつあります。
またそうした変化に伴って、多忙さゆえに夫婦の時間や話し合いの機会も減り、セックスレス状態になるケースも増えています。現代の夫婦間における性交渉に関する調査では、20歳~49歳のうち51.9%がセックスレスであるという結果が報告されています。
セックスレスになる原因としてはさまざまなケースがありますが、例えば以下のようなものが挙げられます。
➀多忙で疲れている
共働きの場合、仕事と家事の両立に忙殺されるなどして、セックスより睡眠を優先してしまうというケースもあります。
②性的魅力の欠如
長く一緒に暮らしていると、出会い初めの気持ちが薄くなって、家族のような感覚にシフトしてしまうことも少なくありません。
③子供がいる
すでに子供がいる場合は子供の目が気になることがあり、環境的に難しいケースもあります。
④強制感がある
「子供を作るためにセックスをする」という義務のようになってしまうと、特に男性側は勃起しない、射精まで至らないなどのケースがみられます。
⑤夫が勃起障害(ED)
EDは当事者にとって「恥ずかしい」と認識されることもあり、隠そうとしたり、認めようとしないケースが多く見られます。ED薬を利用すれば改善することもあります。
妊活やセックスレスについては、どのような選択をしても夫婦間で納得しているのであれば、もちろんそれがベストです。そのうえで、不妊治療と性交渉をいったん分けて取り組むという選択肢も考えられます。
不妊治療技術の進歩により、必ずしもセックスをしないと子供を授からないわけではありません。不妊治療には「タイミング療法」「人工授精」「体外受精・顕微授精」と大きく分けて3つの方法がありますが、このうち人工授精と体外受精・顕微授精が、性交渉をとらない方法となります。
➀タイミング療法
基礎体温や排卵チェッカーを併用して排卵日に合わせてタイミングをとる方法です。
②人工授精(AIH)
排卵日に合わせて事前に採取した精子を子宮腔内に注入する方法です。
③体外受精・顕微授精
卵子と精子をピックアップして体外で受精させて、受精し分裂した受精卵(胚)を子宮内に戻す方法を「体外受精」といいます。採取した卵子と精子を培養し、多くの精子の中の1つが自力で卵子に入り込む方法です。それに対し、1つの精子をピックアップして卵子の中に注入することまで人の手で行い、受精させて子宮に移植する「顕微授精」という方法もあります。
実際に、セックスレスの状態のまま人工授精や体外受精・顕微授精に進む人もいます。時間的に余裕がないケースでは、「子供を授かる」という目標に焦点を絞り、人工授精や体外受精・顕微授精を選択することも可能なのです。
妊娠できる期限があるなかで、まずは不妊治療を進めて、セックスレスに関してはまた別の問題として考え、夫婦で過ごす時間を増やしたり、カウンセリングを受けたりするなどの方法もあります。EDの疑いがある場合は、抵抗なく薬を使用してみることもおすすめです。
結婚も妊娠も「より幸せになるため」の方法の一つであり、夫婦間のトラブルやストレスの原因になっては本末転倒です。より幸せになるためには、夫婦でよく話し合い、お互いの立場に立って意見を聞き、お二人の納得のいく方法を選択していただければ、それが最善策だと思われます。
産婦人科医師。『医療法人社団暁明会井上メディカルクリニック』理事長/院長。慶應義塾大学医学部卒後研修修了、日本産科婦人科学会認定専門医、母体保護法指定医、東京産科婦人科学会学術編集委員、杏林大学医学部非常勤講師。井上メディカルクリニック
取材/星子 編集/根橋明日美 イメージ写真/PIXTA
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