PEOPLE
30歳で脚本家デビューして以来、30年以上にわたって数々のヒット作を生み出し、〝恋愛の神様”の異名をとる脚本家の北川悦吏子さん。私生活においても損得勘定を抜きにして、ありのままの感情や思いを相手にぶつける、そのまっすぐで噓のない生き方に心を打たれます。
名作ドラマを生み出す裏で、難病とも闘い続けてきた脚本家の北川悦吏子さん。それでも書き続ける理由は、「自分の知らない自分に出会うため」だと言います。3月21日(火)に最終回を迎えた連続ドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」(TBS系列22時~)のポスター撮りをした古民家で、プレゼントされたディオールのワンピースを纏って。
《Profile》
1961年岐阜県出身。’92年「素顔のままで」で連続ドラマの脚本デビュー。その後「ロングバケーション」「ビューティフルライフ」「オレンジデイズ」など、数々のヒット作を手がけ、〝恋愛の神様〟と呼ばれるようになる。2018年にはNHK連続テレビ小説「半分、青い。」を手がける。先日「夕暮れに、手をつなぐ」(TBS系)が最終回を迎えたばかり。
脚本を手がけたドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」が最終回を迎えました。好きな回は何度も観ますね。だから最終回が来て終わるのは、いつも少し寂しいです。
主人公は広瀬すずさん、永瀬廉さんのあて書きです。局の方から「この企画をやりませんか?」と言われたことはほぼなく、いつも自ら企画を立ち上げます。決まると、タイトルからキャスティング、主題歌まで、すべて関わらせていただきますね。
’96年に放送されたドラマ「ロングバケーション」は、「あすなろ白書」が当たった後、木村拓哉君がフジテレビの月9で主演を務めることになり、もともと構想としてあった企画を提案しました。話題になったスーパーボールのシーンは、自分が小さなときにああして兄と遊んでいたものです。
今日の撮影は、「夕暮れに、手をつなぐ」のポスター撮りをした一軒家。書いたものが映像となって観られる脚本家って、本当に楽しい職業です。
夫とは30歳で結婚しました。30歳までに結婚したいと思っていたけど、当時はホテルに缶詰めになって連ドラを執筆していたのでデートができない。次に出会った人と結婚するぞと確信犯でした。夫が家でお皿を洗ってくれているとき、振り向いて「結婚しようか」という言葉があった気がします。
実際結婚してみると、みんなそうだと思いますが、価値観も性格も合わないところがいっぱい。喧嘩も絶えず、夫を責めたりしてましたが、それを受け止める夫の容量も限界に達しただろうと、もう責めないと反省。今は「問い詰めない、責めない、怒らない」に徹して、意識的に甘えたり、機嫌を取ったりしています。例えば、私は新聞の購読をやめたくて、スマホで読めよと思うけど、夫にとってはアイデンティティの崩壊に繫がること。そこは責めずに受け入れる。そうすると、夫の態度が柔軟になります。そうやって、今はお互い人間として寄り添える夫婦になりました。オシャレしたときは、決して夫のためではないけれど、「キレイでしょ?」と夫に見せてから出かけます(笑)。
私は感情の総量がとても多い人。家庭内で全部をぶつけず、女友達や男友達に愚痴ったり、話を聞いてもらいます。その友達も、最初は私の話が新鮮でも、あり余る感情の揺らぎを受け止めきれなくなるときがくるから、順番制にしているの(笑)。そういう術を40代から身に付けました。
39歳でドラマ「ビューティフルライフ」、その後「空から降る一億の星」や「オレンジデイズ」など、40代はよく書きました。娘も保育園から小学校に上がり、少し手が離れて一番楽しかった時代。母親業もちゃんとやろうと思い、保護者会にもよく出ていました。でも、ちょうど「ビューティフルライフ」のヒロインが亡くなる回を書いているとき、保護者会で自分が分離する感じになって、パニックになり、それ以降は無理をしないようになりました。
部屋にこもって書いていると、娘が「ママ、ママ」と扉をバンバン叩くこともあり、子育てと両立する辛さを感じることも頻繁にありました。振り返ると、もっと一緒にいればよかったと思いますが、どれだけ一緒にいても後悔ってあると思うんです。娘は私に何も言わないけれど、’19年に「アナザースカイ」に一緒に出たとき、「お母さんが仕事をしていることをどう感じていた?」と聞かれ、「仕事ばかりしていたけれど、時間をかけないのと、愛されていないのとは違う。愛されてないと思ったことは一度もないです」と言ったんです。「そんなふうに思ってたんだ」と、嬉しかったですね。
私は娘に対しては全肯定で愛しているので、娘を疑ったことがないし、3回くらいしか怒ったことがありません。娘に「ママはあんたのこと『可愛い』しか言わないと思ってるでしょ?」と聞くと、「うん」と。
実は私は16歳のときに腎臓病がわかり、「子供は産めない」と宣告されました。子供のいる人生を望んでなかったので、ショックではなかったし、結婚するときも、子供を産めないことを夫にも了承してもらいました。ところが、奇跡的に35歳で妊娠。体の心配もあり大変でしたが、生まれてくると可愛くて、子育ては楽しかったですね。娘は今年25歳になり、べたべたはしないけど、仲はいいです。クールな子なので、私がうざい彼女で、娘がクールな彼氏みたいな関係。もっと私を信用してよって言われます(笑)。
最近お気に入りのサカイのワンピースで。「40代のころからご一緒した役者さんやアーティストの方と交流を持つようになりました。アーティストの方に『これは北川さんのことだよ』と歌をもらうことも何度か……。こんなふうに見えてるんだと思いました」。
39歳のとき、潰瘍性大腸炎がわかりました。未だに原因不明の国の指定難病です。50歳手前で悪化し大腸全摘を余儀なくされました。この病気とともに20年。人より大変だけど、やりようはあるよと伝えたいです。仮に病気ではなくても、誰しも家族の問題、経済的なことなど、人生には抜き差しならないことが起こります。それが私には病気で、どうしようもないことを引き受けなければならなかった。その中でどう生きていくか、大変なものを背負いながら苦しかったけれど、じゃあ不幸だったかと言うとそうではなかったし、病気だったからこそ手を差し伸べてくださって、築けた人間関係もありました。この世って捨てたもんじゃないなと。
私には書きたいものがあり、でもさすがに私の体力で朝ドラは無理だと思っていました。それを友人の脚本家、岡田惠和さんに話すと、ありえないことですが「リリーフで入るよ。口だけでなく、スケジュールを空けているから」とNHKの上層部に話してくださり実現したのが「半分、青い。」。結局、156本、全話自分で書き上げました。書いてる最中、3回くらい入院しましたが完走することができました。
監督の岩井俊二さんと作った初監督映画『ハルフウェイ』も夜は眠れるようにと、ナイトシーンがない映画を提案してくださいました。私の境遇や病気を克服する術を考えてくださり、そこに勇気を出して乗っかることを繰り返してきました。いつ病状が悪化するかわからない私となんて、友人になるのも仕事をオファーするのも覚悟が必要。それを受け入れてくださった友人や仕事仲間には感謝しかありません。
人間関係を築くうえで、損得なしの感情や想いをそのまま相手に伝えます。病気を抱えて、嫌だとか死にたいとかも。うわっ面じゃないから、みんなもうわっ面にならないのかな。でも自分で言うのもですが、病気だけど頑張ってきた私の姿が相手に元気を与えたり、励ましているのかもしれません。甘えて受け取るだけでなく、もらったその先を見ようとしています。
ツイッターも同様で、自分の発したい欲を満たしているだけ。あまりにもいいフレーズが浮かんだら、お披露目したくなるの。でもかまってちゃんのときもあって、書くのが苦しいとき、誰かに「頑張って」と言ってほしくてつぶやくこともあります。あまりこれを書いたら損だ、とか得だ、とか考えないですね。仕事も、すべてにおいて自分の気持の赴くまま。衝動的な時も、多々あります(笑)。でも、それがなくなったら作家としても終わっちゃうし、人としてもつまらなくなる。そんな風に思ってますね。
子供のころからずっとサザエさんに憧れています(笑)。何にも不満がなさそうじゃないですか。きっと心が満ち足りているからだと思うんです。見た目がキレイじゃないといけないと、頑張る人っているけれど、サザエさんはそんなこと考えてもいないと思う。年齢を経て、太ったとしても自分に満足して堂々としていたらカッコいい。だから、自分に疑問がなく、満ち足りている人こそが美しいと思います。逆に醜いと思うのは、人と比較してマウントを取る人。あの人よりイケてる、と勝ち負けで考える人って外見に出てしまうし、顔がキレイでも全然美しいと思わない。40歳を過ぎたら、どういう自分でいるか、自分の価値観でいいんじゃないかな。
仕事に余裕があるときは気の向くまま過ごしています。時間は永遠じゃない。何歳であっても限られています。信じるものや楽しいこと、あと、人との出逢い。まだ、人と出逢えるって信じてます。YouTubeを観たり、好きなアーティストのライブに行ったりも楽しいですね。でも一番幸せを感じるのは、夫と娘が笑って話す声が聞こえてくるとき。そこには私を仲間外れにしてって嫉妬も少し混じるんですけどね。それも含めて面白い(笑)。
ありのままの私を誰かが受け入れてくれるって憧れるけど、そんな相手は見つからない。だから、まずは自分で自分を受け入れる。ダメダメな自分を許して慈しむ。これからのことはこれからのこと。宿題は先延ばししていい。自分には優し目で(笑)。最近はそんな風に考えてます。
2023年『美ST』5月号掲載
撮影/吉澤健太 ヘア・メーク/新井健生 取材・文/安田真里 編集/和田紀子
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