FEMTECH
出産は女性にとって人生の中でも大きな変化を伴うライフイベントですが、赤ちゃんが出てくる「デリケートゾーン」がダメージを受けてしまう場合もあります。そこに、加齢による変化も加わって「見た目が悪くなってしまったデリケートゾーンを夫に見せたくない」とセックスレスに陥るケースも。このようなデリケートゾーンのお悩みについて、婦人科形成手術の第一人者に伺いました。
【目次】
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現在2歳の女の子をもつIT企業勤務の芽依子さん(仮名:36歳)は、第一子出産時、会陰切開前に会陰が避けてしまい出血。産後は3週間の長期尿閉(※尿が出せなくなる状態)と便漏れ、くわえておよそ2ヵ月の間、重度の痔に苦しんだといいます。
産後は産後院に母子入院しましたが、家族に頼りながらも育児を楽しみ、最近ようやく子どもが保育園に慣れてきたところだそうです。
少し前に受けた婦人科定期健診で「37歳から妊孕性(にんようせい。※妊娠するための力)が下がる」と言われて、2人目妊活を考えたそうですが、同じ会社に勤めるご主人とはセックスレス。
夫に「タイミング法を試さない?」と伝える前にふと自身のデリケートゾーンを手鏡で確認すると、肛門や膣周りの皮膚がたるんで残った状態になっており、驚きました。
婦人科検診ではなにも言われないので「たぶん害はない」そうですが、「できれば一生、夫にも誰にも見られたくない。検診すらちょっと嫌だ」とコンプレックスを感じるそう。治療なども考えているそうですが、恥ずかしくて二の足を踏んでしまうとのことです。
産後のデリケートゾーンの変化は、なかなか周りには相談できないお悩みのひとつ。そこで今回は、婦人科形成手術の第一人者でもあるルーチェクリニック銀座院院長の佐野仁美先生に、「デリケートゾーンのダメージと治療」について伺いました。
出産時に赤ちゃんが産道を通ることで処女膜が伸びたり裂けたりし、その一部が「処女膜痕」と呼ばれる突起状の組織として残ることがあります。また、痔も妊娠・出産をきっかけに生じたり悪化したりすることがありますが、症状は改善しても、「肛門皮垂(スキンタグ)」などが残ることもあります。これらの“突起”が産後に気になるというお悩みは、珍しいことではありません。
今回の相談者様のように「肛門や膣周りの皮膚がたるんでしまって嫌だ」という場合は、スキンタグを専門とする肛門科か、美容外科がよいかと思います。産後すぐでしたら、まずは産婦人科にご相談されることをおすすめします。
「症状ではなく美容面が気になる」という場合に、美容外科に相談することが選択肢のひとつとなります。
一般的に、傷が安定するまでには半年程度かかるとされていますので、産後半年ほどの間は自然に改善することもあります。出産によるダメージを受けた組織も、最終的な形態が見えてくるまで待つことが大切な治癒の過程です。
そのため、美容目的の治療を検討する場合は、産後半年を過ぎて形態が安定したタイミングがひとつの目安になると思います。
産後は肉体的な面でも精神的な面でも、疲労がたまりやすい時期です。さらに、ホルモンバランスの影響で性交痛が生じるケースもあります。また、急に育児が始まったプレッシャーで、夫婦関係も揺らぎがちです。
2人目を考えていても、睡眠もおしゃれもままならず「それどころではない」とお感じになるケースも考えられますし、心身の不調を我慢されている方も少なくありません。産後はデリケートゾーンの変化だけでなく心身全体が大きく変化する時期ですから、まずはご自身の心と体を大切にしていただきたいと思います。
しかし今回のようにそんな時期を超えて、ご本人がデリケートゾーンの変化を気になってしまう場合には、自己肯定感にも影響することもありえます。ずっとコンプレックスになって生活に支障が出る、ご自身の人生のQOL(生活の質)に影響が出るようでしたら、一度専門の医師にご相談されることをおすすめします。
当院でも、デリケートゾーンを「誰にも見せたくない」と悩んでおられた方が、治療を受けた後はパッと表情が明るくなって帰っていかれることがあります。診察では、まずはお困りごとをお聞きして「できること、できないこと」をご提案しています。そのうえで「治療をするか、しないか」もご自身で決めていただくことができます。
保険診療は、保険診療の対象として認められている疾患や症状に対して、定められた範囲の治療を行うものです。
端的に言えば「病気と認められるかどうか」がひとつの目安。ただし病気や症状があっても、治療法によっては保険適用にならないものもあります。
「見た目」と「痛み」では少し異なり、痛みなどの症状がある場合は保険診療で相談できることもありますが、見た目を整えることを目的とした治療は基本的には自由診療になります。
「痛み」では、性交痛などについては、原因によってはホルモン剤やステロイド、保湿剤などを用いた治療を婦人科で受けられる場合があります。
一方、レーザー、高周波、HIFUなどによる治療は自由診療になります。昨今では、症状や希望に応じて、保険診療だけでなく、自由診療も含めて治療の選択肢を考えられるようになってきています。
今回のご相談者様の産後のケースで、数ヵ月単位で放置したことで見た目が悪化することはあまり考えられませんが、長期的には、加齢によって皮膚や組織が伸びるなどの変化が起こることはありえます。
セルフケアに関しては、まず保湿をおすすめします。乾燥した状態よりも、保湿をしていたほうが皮膚の状態を良好に保ちやすいため、保湿に気を配ることは大切です。
通常のボディソープでもよいと思いますが、皮膚が敏感な方であれば、デリケートゾーン専用のソープや保湿剤を使うのもひとつの選択肢です。普段から乾燥しないよう意識した上で、アイテムについてはご自身の肌に合ったものを選ぶとよいでしょう。
皮膚がたるんでしまったというご相談であれば、日帰りの手術が考えられます。ダウンタイムはおよそ1週間程度です。また、ちょっとしたたるみでしたら、レーザーや高周波による治療も可能です。
大陰唇は年齢とともにたるみ、垂れてくることがあります。重度の方では、座っているのもしんどいと感じることがあります。顔が加齢によってたるんでいくのと同じようなイメージです。現在はレーザーや高周波、HIFUといった医療機器で引き締める方法があります。また、注入による治療として、ヒアルロン酸やご自身の脂肪を注入してふっくらさせることもできます。
潤いやタイトニング、黒ずみなどのお悩みに対しても、顔の美容医療に使われているものと同様の機器や施術が、婦人科形成に応用されています。また、尿もれなどのお悩みに対する選択肢のひとつとして、レーザーや高周波、HIFUなどの自由診療も行われています。
婦人科形成は、この10年で選択肢が増え、裾野が広がった分野でもあります。また、相談できるところも増えています。今は「すごく恥ずかしくて誰にも言えないこと」から、「みんなで困りごとを共有して、解決していきましょう」という空気に変わってきている過渡期なのではないでしょうか。
フェムテックという言葉も広まり、ミドル世代以上でも、パートナーとのコミュニケーションとして性交渉や性生活を楽しむことを肯定的に捉える文化が構築されつつあります。そんな社会の中で、「デリケートゾーンの見た目が気になる」ことでQOLが下がっているとしたら、医師に相談して、解決につなげていくことも大切だと思います。
ましてや「検診にも行けない」というのは健康にも関わる問題です。まずは相談してみて、そのうえでもし治療によって前向きになれるのであれば、治療を選択することにも意味があると思います。
教えてくれたのは……医師 佐野仁美さん
医療法人社団光美会ルーチェクリニック銀座院 院長。東京大学大学院医学系研究科医学博士。2005年、筑波大学医学部卒業。東京大学形成外科、福島医科大学形成外科、日本医科大学形成外科などで研鑽を積む。東京大学大学院医学系研究科博士課程では創傷治癒について研究し、医学博士を取得。その後、日本医科大学形成外科講師などを経て、2019年より現職。婦人科形成研究会理事長、日本形成外科学会認定形成外科専門医。編著に『婦人科美容・形成術の基本手技 改訂第2版』(克誠堂出版)。https://www.luce-tokyobiyo.com/
取材・文/星子 編集/根橋明日美 写真・イラスト/PIXTA
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