PEOPLE
真打昇進以降も躍進を続ける落語家、林家つる子さん。
つる子さんが落語と出会ったきっかけとはなんだったのでしょうか?正蔵師匠への弟子入り、前座修行を終えて二つ目昇進をした後に経験したスランプとは?林家つる子さんの“落語家前夜”について、たっぷりとお伺いしました!
《Profile》林家つる子
1987年6月5日生。群馬県出身。中央大学に入学後落語研究会に所属し、落語と出会う。在学中からその頭角を表す。卒業後は9代目林家正蔵に弟子入り。2015年に二ツ目昇進。2024年3月下席より、抜擢で真打に昇進。女性落語家での抜擢真打は史上初の快挙であり、12人抜きの異例の早さとなる。女性を主人公に据えた古典落語の再構築など、彼女ならではのエモーショナルな高座に定評がある。2025年には第42回浅草芸能大賞新人賞を受賞。2026年には落語での全国ツアー第一弾も成功させるなど、今最注目の落語家のひとり。
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元々私は映画やドラマ、漫画やアニメが大好きで、何かしら表現できる人間になりたいなと思っていたんです。大学に入学して落語研究会に入ったのはたまたまで、まさかそれが今では仕事になっているなんて、当時は予想もしませんでした。
落研に入ってから落語を知ったと言っても過言ではありません。在学中に各地で開催されていた落語の大会に出させていただいて、良い結果を残せた時もあれば、全く振るわない時も。お客様の反応も、良い時もあれば悪い時もある。そんな経験を繰り返すうちに、「もっと突き詰めたい」と思うようになりました。
そして、プロの落語家になればムラのない高座ができるようになるのかも、と探究心を刺激されるように。そこから落語家になりたいという気持ちが芽生え始めたのですが、すぐに決断することはできませんでした。就職活動も経験しましたが、リーマンショックの時代だったこともあり、どこも受からず…。そうこうしている内に落語研究会の卒業公演の時期が迫ってきて、気持ちがそっちに持っていかれてしまって。
就活と落語を天秤にかけた時に、落語の方が大きいということに気付いたんです。落語家になりたいという気持ちが固まり、卒業後は、学生時代から続けていた立川の中華料理屋でバイトを継続。「らんま1/2」が大好きで、その世界観に触れられそうで選んだバイト先でした。バイトしては寄席に通い、という生活を繰り返していて、気楽ではあったけれど不安や焦りも感じていました。
師匠へのご縁が繋がったのが、大学を卒業して半年経った頃です。落研の顧問でいらっしゃる黒田絵美子教授に今後のことについて相談させていただいたら、まず柳家さん喬師匠をご紹介してくださって。黒田教授はさん喬師匠の新作落語の台本も手がけるほど親しい間柄なんですよ。そして黒田教授とさん喬師匠が、のちに弟子入りをさせていただく師匠(林家正蔵)とのご縁を繋いでくださったんです。
私が子供の頃とかは、師匠は「林家こぶ平」、通称「こぶちゃん」として、テレビを通じてお茶の間の人気者でした。師匠と喫茶店で初めてお会いした時、「あの『こぶちゃん』が目の前にいる…!」と、内心ものすごくドキドキしたことを今でもよく憶えています。
ご縁をつないでくださったさん喬師匠もいらっしゃり、お二人を目の前にして緊張し過ぎてその日はほとんど話せなかったのですが、後日改めて、師匠の根岸のお宅に訪問させていただくことに。その時に出迎えてくださったのが、海老名香葉子おかみさんでした。香葉子おかみさんと、師匠と、師匠の奥様とお話しし、「弟子入りさせてください」としっかりご挨拶をしました。
そして後日、親を連れて再訪し、改めてご挨拶をさせていただいて、正式に師匠に弟子入りさせていただくことになったんです。落語家になるために「何かを諦めた」という気持ちは特にないんですが、前座修行が始まると365日師匠の家に通い詰めになります。8:30に師匠のお宅に伺い、掃除をして、みんなでご飯を食べ、寄席に向かい、また師匠のお宅に戻り家の掃除やお手伝いをする毎日。
さらに私は、当時師匠の家の真隣のマンションに住んでいましたから、自室に帰っても中々気が抜けないし、自由に実家に帰ったり、友達とごはんに…とはいきませんでしたね。早く自室に帰れた日は遊びに行くこともたまにはありましたが、師匠やご家族に会ってしまったら気まずいので、身を隠しながら出かけました。それはもう、忍者のように(笑)。
そんな前座時代を5年ほど経験し、2015年に二ツ目に昇進をしました。寄席の番組で2番目に登場するから「二ツ目」と言うのですが、大体みんなこの時期に自分の方向性を模索するために自由な挑戦をします。前座修業が長かったこともあり、二ツ目に昇進した時はとにかく嬉しくて、手当たり次第に色んな挑戦しました。女性落語家3人で「おきゃんでぃーず」、群馬県出身の落語家4人で「上州事変」というユニットを組んだのもこの頃。落語はもちろん歌やダンスもしました。「芝浜」や「子別れ」などの古典落語に出てくるおかみさんを主人公にして、物語の裏側を描く挑戦に踏み出したのも、二ツ目の頃のことでした。
寄席や全国各地の落語会、ユニットでの活動や、私が主催の会など、ちょっとずつ人様に知っていただくようになると、褒めていただくこともあれば批判をいただくことも。双方冷静に受け止めることができれば良かったのですが、ついネガティブな部分に気持ちが行ってしまって、いつの間にか「批判されないようにするにはどうすれば良いか」ということばかり考えるようになっていました。
ついエゴサーチもしてしまい、肝心の私が落語を楽しめていなかったんです。先輩方は頑張ってらっしゃるし、下の世代もどんどん出てくるし、焦る気持ちもありました。そして思うような落語ができずに悶々としていると世の中はコロナ禍に突入。
落語をする場も完全になくなってしまいました。いやがおうでも自分自身を見つめ直す時間になったと思っています。これまで経験したことのない自粛生活で、世界がどんどん暗くなっていく。でもこんな時こそ、落語家として、「世の中に明るい気持ちを届けたい!」と思ったんです。
これが自分の本当にやりたいことなんだと気付きました。何か楽しいことを発信できないかと、YouTubeチャンネルを本格的に始めたのも丁度その頃。投稿を重ねる内に、自分が「楽しい!」と思える感覚を少しずつ取り戻していきました。私の配信を見て、「元気が出てきました」とか、「コロナ禍が明けたら寄席に行きたいです!」などの言葉をいただくにつれ、自分を応援してくださる方々のために時間を捧げたいと強く思ったんです。
マイナスの意見に振り回されず、私は私の落語をする。そう腹を括った矢先に抜擢真打昇進の話をいただき、何か運命的なものに背中を押してもらったような、今思えばそんな気がしています。
公演情報
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撮影/川谷昌平 ヘア・メイク/森永瑠衣(mfn) スタイリスト/安藝和恵 取材/キッカワ皆樹 編集/西村公寿
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