PEOPLE
前回、2011年7月号にご登場いただいてから12年。昨年話題となったNHK朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」は、なんと朝ドラ初出演だったという多岐川裕美さん(72歳)。印象的な大きな瞳と美しさはデビュー当時のまま。前回の取材からこれまで12年の過ごし方やいつ始めても遅すぎることはない運動習慣についてお話を伺いました。
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たくさんの衣装の中から、ひと目で「これステキ」とパープルのゴージャスなコートワンピをセレクト。纏えば水を得た魚のように着こなし、エレガントにポーズを決める多岐川裕美さん。ワンピース¥159,500(ykF/プロスペール)
《Profile》
1951年東京都出身。’73年新宿区の喫茶店でスカウトされ、東映の主演映画でデビュー。美貌が評判を呼び、NHK大河ドラマ「峠の群像」「山河燃ゆ」などに多数出演し、映画・舞台と幅広く活躍。代表作にドラマ「仁義の墓場」「鬼平犯科帳シリーズ」など多数。NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」にも出演し、話題になる。
今夏、娘が再婚しました。長く一緒に住んでいたので寂しい思いもありますが、報告してくれたとき、素直に良かったーと思えて嬉しかったです。とてもいい方に巡り合えて、2人で何でも決めていけばいい、私が余計なことは言わないほうがいいと思っています。
取り越し苦労の心配性で、悪いニュースを見るたびに、娘が事故にあっていないか、誰かに後をつけられていないかなど勝手に心配しては、「もう子供じゃないんだから」と娘に笑われてきました。30歳を過ぎた頃から、やっと一人の大人として見られるようになって、楽になりました。娘は私よりずっとしっかり者で、逆に悩みを相談できそうなタイプ。今は本当にいい母娘関係が築けていて楽しいですね。
12年前、還暦になったときに『美ST』に出させていただいて、今年で72歳になりました。60歳のときも、50歳のときも、大台に乗るときは私、すごく嫌だったけど、50歳も60歳も若い若い。何だってできる時期ですね。
昔から運動が大嫌いで、若い頃もまったくやらずにきたのですが、58歳で加圧トレーニングを始めました。でも、血圧が高めで、加圧トレーニングが果たしていいのかと気になって、結局2年でやめて、60歳で初めてジムに入会しました。私のことだから最初から続かないだろう、また2年でやめるだろうと後ろ向きのスタートでしたが、いまだに続いています。トレーナーと1対1だと自分のレベルがわからないので、あえてグループレッスンに参加。メンバーの方も気の合う方ばかりで、楽しくトレーニングしています。
特にハマっているのが機能改善ストレッチ。いわゆるハードなストレッチのクラスで、きついけど達成感があります。特に私は開脚が苦手。みなさんは、両腕がぴたっと床につくくらいきれいに開脚されていますが、私は最初その半分も開かなかった。でも、12年間で少しずつ開くようになりました。そもそも一人一人骨のつき方が違うから、私は開脚をしても絶対に脚が180度に開きません。逆に私が難なくできるストレッチでも、できない方もいて、人によって得意不得意があるって、おもしろいなと思います。
運動を始めたことで腹筋が強くなり、持久力も上がりました。実は今通っているジムは前田美波里さんの紹介なんです。その頃、美波里さんはプールトレーニングしかやっていなかったのですが、今は一緒に楽しくフロアトレーニングをしています。私は水が怖いし、カナヅチなので水泳はしていませんけれど。
美波里さんとは温泉にもよく行きます。昔は温泉と言えば烏の行水で、入浴よりお食事しながら仲間とわいわいするのが楽しかったのですが、今はびっちり3時間、出たり入ったりしながらお風呂にいます。「それが温泉の入り方よ」って教わりました。温泉に到着すると、13時くらいから夕飯の時間まで、マイペースで露天風呂に入ったり、半身浴をしたり、シャンプーをしたり、サウナに行ったり。ほとんど美波里さんとたわいもないお喋りをしながらですが(笑)。お気に入りは軽井沢の温泉で、比較的新しい旅館が好き。
料理は好きじゃないんです。とはいえコロナ禍では作っていました。今も朝ご飯はちゃんと作って食べています。昔はサラダと果物とコーヒーくらいでしたが、甘塩の焼き鮭に大根おろし、納豆、きんぴら、おひたしに即席のお味噌汁を。ご飯はもち麦入りの白米を炊いたら、100gずつ量って即冷凍。
冷蔵庫を開けると、3段4段と常備菜の保存容器が並んでいる方、いるでしょ。あれ、憧れです。尊敬しちゃいます。朝しっかり食べるので、昼は食べずに17時くらいから飲み始め、つまみながら夕飯をいただきます。
夕食後は大抵、NetflixかAmazonプライムで映画を観ます。昔は洋画ばかりを観ていたのですが、「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」を観て以来、韓国ドラマにハマっています。演技が上手なのと、同じアジア人だから感情が近いのか、感動させられますね。
今はアメリカのドラマ「ヴァージンリバー」を観ています。さまざまなカップルの話が集まっていて、グサッとささる台詞が多く、うるうるします。観ていると眠くなってきて大抵12時に寝て、朝は8時前に起床。最近は寝つけないことも多く、そうすると映画やドラマを観てしまうんです。
短大在学中にスカウトされ、22歳のときに映画で主演デビュー。演技をきちんと学んだことはなく、現場で演じながらやってきたので、いつまでたっても「もっとうまくなりたい」と自分の演技に満足できず今に至ります。でも、その欲が尽きないのが役者業の魅力。だから続けているのだと思います。
20代で結婚できなければ一生しない、結婚より仕事をしたいと思っていました。結果、33歳で結婚するときも、仕事を辞める選択はなかったですね。
37歳で華子を出産。妊娠中にすでに決まっていた仕事をお断りしてご迷惑をおかけしたことは、今でも申し訳なかったと思います。出産後も当然のように仕事を続けましたが、ずいぶん後になって、友人の女優さんが子供が7歳になるまで一切仕事をしなかったと聞き、その考えがまったくなかった私はさすがに考えさせられました。
45歳で離婚後も、周囲に助けられながらの子育て。シングルマザーを苦労と思ったことはないけれど、子供に可哀そうな思いをさせたのではないかという反省が今も残っています。
20代、30代はただただ楽しい充実した日々でしたが、40代以降は自分のことだけでなく、子育てや家族の問題など、さまざまな苦労を乗り越えなければならなかった時期。楽しいことばかりとはいかなかったです。なかでも一番辛かったのが母の死。父、兄を見送って、最後の最後に母が亡くなったのが私が58歳のときでした。95歳の大往生でしたが、私を守ってくれていた人が誰もいなくなって寂しかったですね。特に母は生きていてくれるだけでありがたかったから。
母の晩年、母は私と一緒に住むことを望み、私もそうしたかったけれど、当時住んでいたのは、郊外の小高い場所にある一軒家。家の中も周囲も階段と坂だらけで、年老いた母が暮らすにはとても不便な家でした。「なぜあなたの家に住めないの?」と言われることの辛さといったらもう。結局施設に入居することになり、最後は施設で看取りました。今思い出しても切なくなりますね。
それから何年かして、都心の今の家に引っ越しました。方角など風水は何も考えず、空気感と雰囲気の良さだけで引っ越したのですが、年齢を経ると便利で動きやすいところが大正解。引っ越して本当に良かったと思います。郊外にいるときは徒歩5分のところでも車で移動して、歩くことがまずなかったのですが、都心は駐車場に困るので、必然的に歩くことが増え、アクティブになりました。
お陰様であまり風邪もひきません。この7月に初めてコロナに罹患しましたが、比較的症状は軽かったのでありがたかったです。
45歳の頃に更年期らしきホットフラッシュはありました。ちょうど舞台『細雪』の稽古場で「暑い暑い」と言っていたら、座長の故・淡島千景さんが耳打ちで「だめよ、人前で言っては。それは更年期よ」と教えてくださり、まだ大きな声では言えない時代でした。
あの頃はステキな先輩女優さんがたくさんいらっしゃいましたね。なかでも故・太地喜和子さんが憧れでした。普段は男勝りで奔放な方なのに、いったん役を演じると180度違う色気のある女性に変貌するんです。本当に美しかった。生きていらっしゃったら今80歳。おばあさんになられた太地さんが、どんなお芝居をされたのだろうと、本当に観たかったですね。
振り返ると、60歳以降は新しく挑戦するおもしろい舞台のお仕事だったり、昨年はNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で、70代にして初めて朝ドラにも出演しました。最初から引き込まれるドラマで、視聴者として毎朝楽しんで観ていたので、途中でオファーをいただいたときは本当に嬉しかったですね。
仕事はいただくものなので、自分の思うようにはならないけれど、できる限り演じていきたいと思っています。そもそも私は心配性で反省魔でもあるネガティブ人間。でも、人生はいつどうなるかわからないから、楽しんで暮らしたいですよね。言霊って言いますから、楽しい言葉を口にするようにして、ポジティブシンキングで、何でもいい面を見るようにしていきたいですね。それにはまずは性格を変えなくちゃね(笑)。
振り返ると、40代は自分を見つめ直し、将来に向けて目標を定める時期。なのに私ったら、のんびり遊んでしまったことをすごく反省しました。ぜひ時間を大切に使ってほしいですね。
2023年『美ST』12月号掲載
撮影/吉澤健太 ヘア・メーク/本名和美 スタイリスト/津野真吾(impiger) 取材・文/安田真里 編集/和田紀子
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