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中谷美紀さん(47歳)「朝はパジャマでゴミ捨て。夫に笑われます(笑)」

気品と知性を備えた凛とした佇まいに幸せオーラが加わって、ひときわ輝きを放つ中谷美紀さん。オーストリアに暮らすようになって、日本人の高い美意識や美徳を再認識することも多いそう。徹底したプロ意識で厳しく自己管理をしながらも、自分を褒めて慈しむことも大切にする自律と自愛の絶妙なバランス感覚を、率直な言葉でたっぷりと語っていただきました。

〝頑張る私〟を褒めてこそ、周囲を愛することができる

’76年東京都出身。’93年のドラマデビュー以来、映画、ドラマなど数々の話題作に出演。’06年『嫌われ松子の一生』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞の他、多数の受賞歴を持つ実力派。音楽活動や書籍執筆などでもマルチな才能を発揮。’23年3月にはミハイル・バリシニコフと共演の演劇「猟銃」のニューヨーク公演を控えている。

トップス¥83,600(カオス/カオス表参道)

「I can do it!」の精神で前を向いています

どちらかと言えば、もともと怠惰な人間なのですが、仕事に入ると一転してスイッチが入ります。1月に放送・配信となるWOWOWの「連続ドラマW ギバーテイカー」で演じたのは、少年犯罪により娘を殺されたことで刑事に転じた元教師。自分が体験したことがない壮絶な境遇を理解することは簡単ではなく、どのように彼女の苦しみに近づいて自分の中に取り込むことができるのかを考えて悩みました。

そこで、役柄の苦悩を何とか掘り起こそうと、たまたま近くで開催していたムンクの絵画展を観に行きました。苦しみや痛みを抱えた人の作品に触れることで自分の中にネガティブな感情を移植することができるのでは、と考えたのです。撮影中の2カ月間は掃除洗濯などの雑事はせず、日常生活から離れることでひたすらに役柄の感情と一体化するよう努めました。

現場では享楽的なことを一切封印するために、食べる楽しみやお腹いっぱいになった幸福感も味わってはいけないと、なつめバターや無糖チョコ、MCTオイルなど少量でエネルギー値の高い食品を、まるで車にガソリンを入れるかのように粛々と摂取(笑)。生命維持のための最小限のエネルギーを体に取り込むだけの食生活を続けました。

あまりに壮絶な役柄に没頭した2カ月余りは非常に苦しく、撮影が終わった後は達成感よりも虚無感の方が大きかったくらいでした。少年犯罪などを包括するこのドラマのテーマは決して軽くはないですが、猟奇殺人犯を演じる菊池風磨さんはじめ魅力的な共演者、素晴らしい演出や編集のおかげで見応えのあるエンターテインメントに仕上がり、とても嬉しく思っています。

自責の念という十字架を背負って生きる苦しみ、生きることの難しさ……。だからこそ人生や人間は味わい深い、とも感じますし、観てくださる方々それぞれが違った見地からいろいろと考えるきっかけになれば嬉しいですね。

10代の頃お世話になった英語の先生から、物事の達成のためには自分自身のエンパワーメントが大事、と言われました。それ以来、鏡を見ながら背筋を伸ばし、胸を開いてシャキッと立ち「I can do it!」と唱えています。そうすることで自分自身が鼓舞されてどんな状況でも最大限の力が発揮できる。背筋を伸ばすといった己との非言語コミュニケーションは、スポーツ心理学的にも自信を高めるための最善の方法だそう。

さらに大切なのは自分で自分をきちんと褒めること。私も仕事が終わった後には「よく頑張りました!」と自分自身を褒めることを習慣にしています。失敗もしますし、決して完璧ではないけれど、努力した自分を自分で労うことは自己肯定感を高めて前を向くためにもとても有効なことだと思うのです。自分を大事にしたり愛したりすることができない人は、人にも優しくできないし、誰かを愛することなどできないと思いますから。

ドレス¥173,800(ヌメロ ヴェントゥーノ/イザ)ネックレス¥397,000(トーカティブ/トーカティブ 表参道)ブレスレット¥286,000(キウナ/エスケーパーズオンライン)

完璧じゃないからこそ自分を甘やかすことが大事

日本とオーストリアの2拠点生活を始めてから、日本は働く場所、オーストリアは休む場所と自分の中で自動的にオンオフのスイッチが切り替わるようです。オンには食事にも気を使って仕事に向けて体を整える生活をしますが、オフでは寝たいだけ寝て、食べたいだけ食べる。自分を思いっきり甘やかしています(笑)。

睡眠時間がいちばんの幸せ、と断言できるほど眠ることが大好きなので、認知機能が衰えると言われようが、心肺機能によろしくないと言われようが、予定がない時にはたっぷり眠ります。10時間は眠り続けられるほどのロングスリーパー、しかもお昼寝も大好きで時間があればゴロンと(笑)。日本では天然毛を何層にも重ねた京都のIWATAの寝具がお気に入りで愛用していましたが、今は寝具にこだわらずとも5秒でストンと眠りに落ちるほどの快眠生活で、ソファで寝落ちせずにベッドまでたどり着けることを自分に課しているほどです。

今、夢中なのがオーストリアの強力な蚊に刺された後の赤く腫れた肌も鎮静化してくれるパンテノール入りクリーム。オーガニック系のドラッグストアで購入したパンテノールに羊のラノリン配合の2.5ユーロほどのプチプラで、赤みがキレイに治まり、肌の保水力も上がって小ジワが減ったような気もして、もはや手放せません(笑)。

ヨーロッパに暮らしてから日本女性の所作の美しさを再認識しています。立ち居振る舞いや食事の所作、トイレットペーパーの使い方まであらゆる場面で感じる他人への配慮は日本女性の美しさを輝かせる源になっていますね。その反面、女性はこうあらねばならないという理想像を幼い頃から刷り込まれているゆえのジェンダーバイアスの影響を感じることも。

私の中にもそんな気質はあるのですが、国境を越えた途端に解放されて自由な気持ちになってしまうようです。パジャマでゴミ捨てに出たり、朝起き抜けに髪も梳かさずサンダル履きで近所に買物に行ったりすると「日本では君はそんな行いはしないはずだ。旅の恥はかき捨て、みたいだね」と夫に笑われることも(笑)。

また、頭のてっぺんから爪の先までファッションや美容に気を使っているという点では日本女性が世界一かも、と感じています。ヨーロッパでは髪を3日間洗わない人も多いですし、人からどう見られるかより自分がどう感じるかが最優先。流行を追うよりも自分に似合うものをずっと大切にする、そんな空気の中にいると「私は私。無理しなくていいんだ」という解放感でリラックスできるんです。山歩きなどで自然に触れて季節を感じることも気持ちをポジティブにしてくれています。

2022年は仕事とプライベートのバランスもうまく取れて充実した年でした。来年早々にはNYでの舞台公演もありますが、落ち着いたら再びドイツ語を学びたい。生涯付き合っていくものなので、年齢とともに低下していく自分の記憶力を責めたりせずに、焦らず少しずつ進めていけたら、と思っています。

ドレス¥126,500(ハルノブムラタ/ザ・ウォール ショールーム)リング(中指)¥352,000、リング(人差し指)¥264,000、リング(薬指)¥660,000(すべてトーカティブ/トーカティブ 表参道)シューズ(スタイリスト私物)

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2023年『美ST』2月号掲載
撮影/ISAC(SIGNO) ヘア・メーク/下田英里 スタイリスト/岡部美穂 ネイリスト/川村倫子(ネイルハウス安气子) 取材/森島千鶴子 編集/漢那美由紀

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