【連載小説】TOKYO「白肌」恋物語 ①「一体どうしちゃったの?」不意に訪れた恋の予感に、43歳、独身、子あり女性の選択は?

美しい肌は人生さえも変えてくれるの?
ふとしたきっかけで使い始めた美白コスメをきっかけに始まった、
43歳シングルマザー・五本木透子の「2度目の青春」ラブストーリー。

第1話 シミウスと恋の交通渋滞



「じっとしてて」


低く柔らかな声とともに目の前にコーヒーの紙コップが急に飛び出してきて、透子は本日のおすすめ「コールドブリュ」をスマホにこぼした。


「だいじょうぶ? でもちょっとまってて。こっちのほうが先」


ふだんは紅茶派の透子が初めて寄った南米コーヒー専門のカフェ。対面のお客との間のアクリルボードに紙コップがつき刺さっている。それをつかんでいる、白シャツからのびた細く長い指。コーヒーに水没しかけているスマホが気になるけれど目の前の紙コップと美しい手がもっと気になってフリーズする。


「ハチがいたから。なにか紙もってる?」


左隣には黒目がちな仔犬のような男の子。推定年齢はおそらく20代後半。
急いで手帳のページを1枚破いて差し出すと、器用に紙コップの下に差し込んでお店の外に逃がしてくれた。


「びっくりさせてごめんね」

「いいえ、こちらこそ、ありがとうございました」

「姫をまもるためなら、これぐらいあたりまえだよ」


え? 姫?


「スマホこわれてない?」


見上げた小さな顔は意外に高い位置にあって、笑うとエクボができる。
カフェに不法侵入したハチから透子を守ってくれた王子様は、気づくと隣で透子のコールドブリュを飲んでいた。


「これ、おいしい。ね?」


少し前にオープンした南米コーヒー専門店は、勤めているハウジングメーカーと駅の間にある。離婚する2年前から再開した仕事は損保OL時代にお世話になった先輩のツテで得た事務職だ。いつもは高校2年生になる娘・心白(こはく)が待っていると思うと1分でも早く帰って夕飯の支度をしたいところだけど、でも今日は家と会社の往復をちょっぴり変えたくなって、そのとたんに・・・姫って??


「コーヒー、好きなんですか?」


透子が聞くと「うん、わりと好き」とうれしそうに答える。「コールドブリュは“スパークリングマグノリア”のフレーバーなの。シトラスとハチミツの匂いがしない?」と話す男の子から自分の肌がどう見えているのかが気になってそっと頬に手をあてた。


「スマホちゃんと動くかな? LINE送っていい?」


交換したアカウントにはSATORUの文字と白っぽいお花が咲いたような草原の写真。





そう、これはシミウスをきっかけに始まった恋の物語。
1人じゃなくて、
なんと、3人だけれど!



部活のバスケに打ち込んでいる娘・心白の朝練用とランチ用、W弁当作りのために透子は毎朝5時に起きる。
洗面所で顔を洗い、いつものように自分の顔を見た。

「43歳のシングルマザーにしては、悪くないわよね」

強がってみたけれど、思い切り笑うのを躊躇うくらいには目尻のシワが増えてきたことにあらためて気づいたのが何日か前。
そういえば夕方のくすみがひどくなっている。
そのくすみがひと晩寝ても取れにくくなっていた。

どうしたら肌を元気づけられる? 今の自分に必要なのは?

そう考えたとき、ふとSNSで見かけたコスメを思い出した。
言い訳できないほどに簡単なオールインワンの美白ジェル、シミウス。
届いたとき、そのひんやりとしてラベンダーがかって透きとおったジェルの感触におどろき、肌にのせるとするりととろけて一瞬でぐんぐん内側に吸い込まれていくことにさらにおどろいた。
肌だけでなく、心の中にあるモヤモヤまでも清めてくれるようなジェル。

普通にお勤めして普通に結婚して子供を授かって子育てして、ごく普通で当たり前の毎日を送って年を重ねていくはずだった。それが気づくとこの世に生を受けたときの名前・五本木透子にリセットされていて、なんだか自分でも笑ってしまう。

普通って、幸せって、なんだっけ?

考えても仕方ない、と首を振っても心にモヤモヤがちょっぴり降り積もる。
でもジェルを肌においた瞬間からは顔だけじゃなく、心まで潤いにみたされた気がした。
そんなことは人生で初めてのことだった。

昨日のハチの王子様効果もあるのか、今朝の肌はうんと調子がいい。
起き抜けの洗面所で鏡を見て、自然と口角があがった。

心白に持たせる今日のサンドイッチはエビとアボカド、ランチ用のお弁当はサーモンのゴマ甘酢照り焼き。どちらも彼女の大好物だ。

フライパンに油をひき、火をつける。使っている鉄のフライパンは専業主婦だった実家の母から譲り受けた匠の名品だけど、今の透子には少しだけ重い。
キッチンのすみっこにおいている、心白が生まれたときに買ったオリーブの木も引っ越しによる環境の変化のせいで戸惑っているようで元気がない。

――とがった葉っぱが邪気を祓うからオリーブは平和と幸せの象徴。

そう聞いて可愛がってきたのに。
何が平和で、何が幸せか。
それを決めるのはたぶん自分自身。元気出していこう。
透子は週末に新しいフライパンを買おうと決めた。



その夜のお風呂上がり、髪を乾かしているとピコン、とLINEの着信音が鳴った。
もしかしたら? ドキドキして開けるとSATORUくんから初めてのLINE。


(姫~)

(きのうのハチ男、四ッ谷サトルです)

(スマホはげんき?)


これが世に言う“男子からのLINE”っていうもの!
どんな返信をするのが正解?
すぐに返事をしてもいいの?
パニックになっていると、今度はメッセンジャーのアイコンに数字がついた。
幼なじみで会社員をしつつ料理人を目指している八代くんから。
10年ぶりの連絡だった。


(お元気ですか? 久しぶりにお会いしたいです)


どうしてこのタイミングで?
とにかく髪を乾かそうとドライヤーに集中する。またピコンと着信が。今度はOL時代の友達から。


(テニス仲間でいい人がいるの、透子に合うと思うから紹介させて)


二階堂さんというテニスの達人、バツイチの48歳だという。


(すごく紳士で優しい人よ)

(恋のスイッチ、復活させないとあっという間に心白ちゃんがお嫁に行って一人になっちゃうよ?)


20年もの付き合いがある女友達ってなんて恐ろしいことを言うの? と透子は笑ってしまう。でも青天の霹靂ともいえる離婚で茫然自失していたとき、新しい住まいを探す相談に乗ってくれたのも、泣き疲れるまで話を聞いてくれたのも女友達なのだ。

ロック画面にメッセージがズラリと並んだスマホをしみじみ見つめる。
独身時代、LINEはおろかスマホもなかった。元夫とは社内結婚だったし。
携帯で男の人と連絡を取り合うなんて初めてすぎて、自分のスマホであって、自分のものじゃないみたい。
昨日こぼしたコールドブリュのせいで、レンアイがスパークする魔法でもかかったの?



あちこちで急に始まった恋の着工式。
透子は髪をブラッシングし終えると、ハリが出てきた頬を両手ではさんだ。
また着信音がメッセージ受信を知らせた。


まだ少しだけシトラスとハチミツの香りが残るスマホの中で
恋が渋滞していた。

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シャツ(スタイリスト私物)
文/笹行あや香 
小説家。大学卒業後、女性月刊誌ライターを経て作家に転身。複数のペンネームで美ST世代を主人公にした小説や、エンターテイメント系のコラムなどを執筆。美STには男性アイドルのカバーストーリーを寄稿している。現在、長編恋愛小説に取り組む。

撮影/須藤敬一 ヘア・メーク/SATOMI スタイリスト/Toriyama悦代(0ne8tokyo)