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日本では半数以上の夫婦がセックスレスに陥っているといわれています。お互い納得の上でフェードアウトしていくケースもありますが、なかには思いもよらない出来事がきっかけでレスになることも。看護師で助産師の知世さん(仮名、36歳)は、大手結婚式場のシェフである安彦さん(仮名、30歳)と、新型コロナウイルス感染症の蔓延をきっかけに性交渉がなくなり、さらに夫婦仲も険悪になったと話します。
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知世さんは数年前まで看護師・助産師としてMFICU(母体胎児集中治療室)で働いており、安彦さんとは女友達の紹介で知り合いました。大学で看護師資格を手にした後、助産師養成課程のある学校で学んでいた30歳の頃。多忙で5年間彼氏がいないと友達に愚痴を言ったところ、彼女の職場のバーベキューに誘われ、手際よく調理をする安彦さんの寡黙で優しそうなところに惹かれて交際を始めました。
「驚いたことに、彼には女性との交際経験がありませんでした。長身で清潔感もあるのに……と不思議に思いましたが、理由を聞いて納得しました。彼は中学・高校とアメリカで育っており、両親ともにクリスチャン。プロテスタントの教会に通っていて、真面目な性格と宗教的な理由で交際に慎重だったみたいです。私は、実家は仏教徒ですが大学はミッションスクールだったので、抵抗はありませんでした」。
意気投合するというよりも「忙しいけど結婚したいお互いの利害が一致」して急接近したという知世さんと安彦さん。
「彼は、自分のメンタルを整えるために聖書を読んだりはしていますが、なにせ結婚式場のシェフなので日曜に礼拝に参加することも少なく、私に対しては何も強要しないスタンス。ワイン好き、旅行好き、食べ歩き好きで、猫好きという趣味も合いました」。
性交渉も新婚当初は週1程度で、半年ほどして減ったものの月に1回から2ヵ月に1回くらいは知世さんからさりげなく誘うかたちで成り立っていたそうです。
「私はあまり恥ずかしがらないタイプ。『今日は一緒に寝ようか』と言ったり背中をマッサージしたりして抱きつくことに抵抗はありません。疲れていない時であれば応じてくれますし、たまには逆に彼から甘えてくることもありました。コロナ前までは極めて平和な日々でした」。
そんな2人の新婚気分が抜けきった2年目、新型コロナウイルスの日本国内の感染者数が増加し、緊急事態宣言や外出自粛要請などという言葉が飛び交いました。
「私は新生児の命を預かる医療従事者です。同僚も続々とコロナに感染する中で、病院の宿泊施設に泊まり込んで家に帰らない日が続きました。対する夫は、外食産業に従事している料理人。『予防はするが、経済を回さないと日本はダメになる。フレンチシェフ仲間の店にお金を落とす』と言い張り、友人・知人のレストランに積極的に出かけていき、外食をするような生活。当然、大ゲンカになりました」。
当初は予防に気を使いつつ週に数日は帰宅していた知世さんですが、安彦さんが外出続きだと知り、病院の寮に荷物を運び込んで別居を決意します。
「医療従事者の妻がいるのに、わざわざ外食・飲酒をする意味が分かりませんでした。さらに彼はワクチンも打たないと言い出して。それはもちろん個人の自由です。でも私は『赤ちゃんの命をなんだと思っているの、あなたは最低。だったら私には触らないで』と激怒しました。私には、経産婦とお子さんに対する責任があるからです」。
今思うと、安彦さんは安彦さんの立場から、必死で自分と仲間の仕事を守ろうとしていたことも理解できなくはないと知世さんは言います。家を出るという看護師としての対応は別として「言い方に棘があった」ことは反省しているそうです。
「そんな状況で、離婚寸前まで追い込まれていました。宗教の違いも年齢の違いも乗り越えた2人だったのに、お互いの職業の間にコロナが入ってきたせいで、半ば憎み合っていました」。
そんなコロナも「5類感染症」となった2023年、安彦さんの母親が脳梗塞で倒れます。「ダルい、目が片方かすむ」と言いながらも「いつも寝れば治るから」と病院に行くことを拒否した彼女を「寝室で休ませた」という安彦さんからのLINEを見て間髪入れず独断で救急車を呼んだ知世さん。
「結果は脳梗塞でした。血管が詰まる病気ですから発症早期に病院で処置することが非常に大切です。幸い義母は、右足に軽い障害が残っただけで、たまにヘルパーさんを呼びつつ自宅で義父と生活できるレベルまで回復しました」。
知世さんはそんな義母を気遣い「スープの冷めない距離」に転居。仕事も不妊治療中心のクリニックに転職しました。
「夫や義両親には感謝されましたが、義母はトイレにも行けますし、介護ヘルパーさんもホームヘルパーさんも定期的に来てくれています。私は、そういった方々を頼む手続きをしたり指示を出したり、介護保険について夫に説明したり。それ以外は時間がある時にお惣菜を作って持って行くくらいしかしていないんですが……」。
それでも家族に医療従事者がいることは義両親にとって安心材料になったそうです。安彦さんも、実の母親が倒れて初めてコロナ予防の大切さを実感したようです。
「この春に彼が温泉に誘ってくれて、そこで謝ってくれました。『仮にコロナが俺にとってはただの風邪だとしても、それで亡くなる人もいる。料理人の立場上、外食産業を衰退させたくなかった。でも知世に対する思いやりは欠けていた』って。おかげでセックスレスも解消しましたし、今ではお互い神経質なほど手洗いやうがいには気をつけつつ『必要な時は短期別居する』かたちで仲良く暮らしています」。
1ヵ月前から体外受精をする方向で不妊治療を始めたという知世さん。
「子供ができればよりいっそう職業の違いや宗教、育った文化の違いをすり合わせる必要が出てくると思います。それでも、話し合うことや、相手の立場に立って思いやりを持ちながら折衝案を探すことの大切さに気がついたので、子供ができてもできなくても今はやっていける気がしています」。
※本記事では、プライバシーに配慮して取材内容に脚色を加えています。
取材・文/星子 編集/根橋明日美 イメージ写真/PIXTA
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