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日本では半数以上の夫婦が陥っているといわれるセックスレス。千葉県に住むバレエ講師の美穂さん(仮名・38歳)は、結婚前は彼女を「推し」とまで言い切っていた夫・康介さん(仮名・38歳)とセックスレスになったことに、釈然としない思いを抱いています。
美穂さんと康介さんは、同じ幼稚園・小学校に通っていた幼馴染。「夫の祖母は地元の千葉でバレエ教室をやっていて、幼稚園時代は2人とも彼女にバレエを習っていました。もっとも体の固い彼は長続きしませんでしたが」。
美穂さんの方はバレエを続け、10代になると都内にあるバレエ団に通う生活に。高校時代はコンクール入賞も果たし、オーディションを受けて大きな舞台に立ったことも。高校卒業後は短期大学で指導法を学び、バレエ団に所属。社会人になるとヘアショーやウェディングショーモデル、バレエ講師のアルバイトをしながら、バレエに打ち込んできたといいます。
対する康介さんは、大学時代に開かれた小学校の同窓会で再会した美穂さんに夢中に。幼馴染たちのお膳立てもあり美穂さんに告白しますが、「康ちゃんは友達か弟としか思えない」と美穂さんは彼を振りました。
康介さんは歯科クリニックを営む地主の息子。お坊ちゃまでしたが、虫とアニメフィギュアと歴史が好きな大人しい少年だったそうです。「優しい性格で博識でしたが、恋愛対象にはなりませんでした。幼稚園の頃から色白でぽっちゃりしていてぬいぐるみみたいでしたし」と回想する美穂さん。
告白を断られた康介さんは意気消沈したものの、持ち前のポジティブさですぐ復活し「友達でもいいからまた遊んでよ」と美穂さんと友情を育みます。
祖母の影響でバレエ鑑賞に興味があった彼は、美穂さんの舞台に通い詰め、その様子はさながら「推し活」状態。美穂さんが、有名俳優も出演するミュージカルにバックダンサーとして出演した際は、大きなバラの花束を受付経由で届けてから鑑賞する熱の入りようでした。
25歳の頃、美穂さんは年上のピアニストと恋に落ちます。しかし交際当初こそ燃え上がったものの、芸術家気質の彼と彼女はケンカが絶えず半年で破局。
「出会ってすぐ婚約までしてしまい、式場も決めて結婚式の招待状まで出しました。結婚式をキャンセルすると、招待した方に『取りやめになりました』というハガキを出さなきゃいけないんです。あの作業のわずらわしさと物悲しさは一生忘れません」。
学生時代にも短い恋愛経験はありましたが、結婚を考えるほどの真剣交際は初めてで、深く傷ついたそう。「もう恋愛なんてしなくていい、自由に踊らせてくれる人なら誰でもいい」。そう公言した美穂さんに、康介さんは「誰でもいいなら僕だよね。バレリーナの美穂は僕の推しだから、いくらでも踊って」とニコニコとプロポーズ。
「彼は歯科技工士になっていて、お姉さんが跡を継いだ歯科クリニックで働いていました。資産家の長男で、当時70代の彼の祖母は地元の現役バレエ講師。条件の良さは抜群でしたし、なにより一緒にいて癒やされるかわいらしい存在でした」。
「俺、こりない男だから」と二度目のプロポーズをした康介さんは初恋を実らせ、2人は結婚。「誰でもいいって言われて『それなら僕』ってお前にはプライドがないのか」と友人たちに冗談半分に野次られながらも、都内のホテルで結婚式を挙げます。
美穂さんは、小柄なのに顔が小さく手足が長いドーリーなルックスで、フィギュア好きの康介さんは「とにかく見た目が好き。昔から好き。姉御っぽい性格ももちろん好き」と公言する愛妻家。
「新婚旅行はベタにハワイに行きました。彼は私の写真を撮るのが好きすぎて、ビーチでカメラマンと間違えられて恥ずかしい思いをしたこともありました」。交際当初、初めて結ばれた時は緊張しすぎて「うまくいかなかった」康介さんですが、共に過ごすうちに徐々にリラックスしてきて、新婚時代は性交渉も週に1、2回ほど。
結婚2年目で美穂さんは妊娠して、バレエ講師の仕事を休んで産休に入ります。「夫はフィギュアを作るのが上手なので、私そっくりのバレリーナのオルゴールを作ってベビーベッドに置いていました」。初孫ということもあり、ベビーグッズはほぼ義実家が揃えてくれて、編み物をするなどのんびりとプレママ期を過ごした美穂さん。
「予定日より少し早く元気な男の子が生まれました。『母子ともに健康です』と言いたいところでしたが、実は私は元気ではありませんでした。会陰切開をする前に赤ちゃんが飛び出してしまい、肛門の方まで裂けてしまって……」。
幸い無痛分娩で痛みはなく、すぐに縫い合わせたので出血も多くありませんでしたが、麻酔が切れてみると肛門の感覚がまったくなくなっており、肛門括約筋損傷と告げられます。
自力で肛門を絞めることができず便漏れをしてしまうので、大人のおむつも履くことに。改善は見込めるという診断ながら、精神的に不安定になります。
ショックのせいか母乳が出ず、実家の母親と、産休をとって実家に泊まり込んでくれた康介さんの連携プレイで、新生児は粉ミルクで成長。
「東京の専門医にかかって、3ヵ月で完治しました。やっかいだったのは産後鬱で、薬の副作用やストレスから甘いものを食べすぎて15キロ太ってしまいました。今は5キロ痩せましたがもとには戻りませんね。鬱は出産から8年経った今も、寛解と再発を繰り返しています」。
出産後は、年齢や体型の変化もあり舞台のオーディションを受けることからは卒業。康介さんの祖母が所有するスタジオで、近所の主婦や子供にキッズバレエや気軽にできるエクササイズバレエを教えているそうです。
夫婦仲は良いそうですが、出産後のバタバタが落ち着き、気がついたらセックスレスに。
「産後1年ほどたった頃に、妊活をしてみようという話になってタイミング法を試してみたんです。でも途中で萎えてしまうことが何回かあって、夫は『緊張しているのかな』『年のせいかな』って言っていたんですけど。なんとなく気乗りがしないような空気を出していたので、体外受精に切り替えました」。
3回ほど体外受精、顕微授精に挑戦して、1度流産をしてしまったことから「子供は1人でいいかも」と気持ちを切り替え、妊活にピリオドを打ちました。今は、親子3人でグランピングにハマっていて、義実家との関係も良好。セックスレスですが美穂さんは概ね幸せだそうです。
「夫は家が大好きで、部屋でフィギュアやプラモデルを作ることにはまっています。特別な理由がなければ毎晩家にいてくれるし、子供と遊ぶことも好きみたいです。まぁ家にいるのは妻子のためというより、『早く帰って自分の部屋で早く寝る』ことが彼にとって快適だからかもしれませんが」。
友人には「30代でセックスレスだなんて浮気をしているんじゃないの?」と脅されたことも。「ないと思うけど……。いつも職場か家にいるし、スマホも『フィギュアを作っていて家を出たくないからスマホゲームの移動距離を増やしてきて』って私に預けるくらいだから」と答えたら、「そっち系か」と苦笑いされたそう。
「歯科技工士という職業柄、すごく精巧なフィギュアを作ってくれて、子供の好きなヒーロー人形なんかも売り物みたいで驚きます。最近では、私が18歳の頃、舞台で『ジゼル』を踊った時のフィギュアも作ってくれています。妻の若い頃の人形を制作するのにハマっている夫って引きますよね。その舞台で私は、乙女のまま死んだ妖精ウィリーの役だったんですが……。彼の『推し』はたぶん乙女のままで、股が裂けたり、便を漏らしたりする前に死んじゃった、妖精なんでしょうね」という美穂さん。
「とはいえ、推されなくとも仲の良い家族だしいい夫です。誰にだって趣味はあるし、私だって好きなように踊っていますしね」。セックスレスになった理由について深掘りするつもりはないです、と美穂さんは寛容な姿勢を見せていました。
※本記事では、プライバシーに配慮して取材内容に脚色を加えています。
取材・文/星子 編集/根橋明日美 写真/PIXTA
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