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日本では半数以上の夫婦が陥っているといわれるセックスレス。特にミドル世代となると「セックスレスでも問題ない」と考える夫婦も増えます。しかし、埼玉県に住むパート勤務の43歳・早紀さん(仮名)は、結婚10年を迎える夫と週に1〜3回ほどは性交渉があるそうです。
「現在はセックスレスではないですが、1回目の結婚の時は完全にセックスレスでした」。そういって苦笑する早紀さんが最初の結婚をしたのは25歳の頃。彫りの深い美貌を活かして、サロンモデルとアパレル店員をしていた時代です。
高校卒業後、実家の埼玉から渋谷まで電車で通ってアパレル店でアルバイトをしていた早紀さん。契約社員に昇格した22歳の頃、カットモデルとして声をかけてきた美容師の圭介さん(仮名)と知り合います。圭介さんは9歳年上で、裏原宿のヘアサロンの店長をしていました。
当時はカリスマ美容師ブーム。ただ、職業のイメージとは異なり「カジュアルファッションのオジさん」に見えた圭介さんは、まったく早紀さんのタイプではありませんでした。しかし美容師としての腕はよかったようで、芸能人やモデルとも親しく交流している様子の彼に口説かれるうちに優越感が刺激され、2ヵ月後には交際することに。
出会った当初から「結婚を前提に付き合ってほしい」と言われており、早紀さんの25歳の誕生日に正式に婚約しました。イタリアンレストランで行われた結婚式の参列者は華やかで、著名人の顔もチラホラ。人気お笑いタレントはビデオメッセージで「圭介、貸した金返せ」と叫び、ブラックジョークととらえたゲストは爆笑。参列したイケメン俳優には「奥さんが美人すぎて、圭介さんにはもったいないくらい」と笑いながら祝辞を贈られ、気分が高揚しました。
しかし結婚してすぐに、圭介さんの「金遣いの粗さ」が発覚。早紀さんを口説くためにプレゼントしてくれた高価なブランドバックや指輪も、すべてカードローンで購入していたのです。破産寸前となり、実家の親に借金を肩代わりしてもらったことがわかると「知り合いにだまされた」「泥棒が入って金が盗まれた」などつじつまの合わない稚拙な言い訳を繰り返しました。
「あのお笑い芸人の『金返せ』もあながち冗談じゃなかったのかも」。ゾッとしたそばから追い打ちをかけるように「オーナー店長と聞いていたのに雇われた立場だった」という嘘が発覚し、激怒した早紀さんは離婚を突きつけます。
しかし「早紀が好きすぎてかっこつけたくて暴走した。心を入れ替える」と泣きながら土下座して謝った圭介さんと、「あまり早い離婚は世間体がよくない」という実母の思いを汲んで、一旦は踏みとどまることにしたそうです。
離婚を踏みとどまってくれた早紀さんに感謝した圭介さんは、しばらくは真面目に仕事に打ち込み、誰の前でも「自慢の美人妻」と早紀さんを立ててくれるようになり表向きは平穏を取り戻しました。
しかし「お金持ちで頼れる年上の男」という虚像が崩れたことをきっかけに、セックスができなくなりました。「子供が欲しい」という早紀さんの訴えで何度かトライしてみたものの、途中で萎えてしまう圭介さんは「僕はEDだから」と夜は家を空けお酒に逃げるように。
それでも3年ほど「仲良し夫婦」のフリを続けますが、アルコール中毒気味になった圭介さんが飲み屋で暴れ、警察に連行されたことで店のホステスと不倫していたことがわかり「妻だけED」だったことが発覚。今度こそ本当に離婚することになりました。
埼玉の実家に戻った早紀さんは、近隣のデパートの洋菓子店でアルバイトを始めました。高校生から彼氏が途切れたことのない彼女は恋愛体質で、離婚直後は傷心のあまり既婚の元彼と不倫をしてしまったことも。
先の見えない関係のまま30歳を迎えることに焦りを感じていた頃、同じ洋菓子メーカーの正社員だった壮さん(仮名)に出会います。1歳年下の彼は薄毛でぽっちゃり。ですが、長身で高校時代にやんちゃだった面影を残しており、「頼りになりそうな貫禄があった」といいます。
ブランドや都会生活に興味はなく、量販店で購入できる「手が届く範囲の快楽を享受するライフスタイル」は「意識が高いように見えて虚像まみれ」だった元夫との生活とは対照的でした。
意気投合した2人はすぐに恋人同士になり、33歳でできちゃった結婚をして長男を出産。さらに35歳で次男も誕生し、義実家の近所に転居します。下の子の保育園が決まると、早紀さんは近所の定食屋でアルバイトを始め、現在まで生活は充実しています。
「セックスは産前産後を除いて週1〜3くらいで定期的にあるので、避妊しなかったら子供は増えていたと思います。セックスレスになっていないのは単純に〝元気〟ということもありますし、田舎なので中古で買った一戸建ては広くて子供と寝室が別というのも大きいですね」
早紀さん曰く、20代と比べると体重は20キロ増えたそうで普段は化粧も眉毛だけ。「今の夫と結婚してから、見た目には気を使わなくなりました。夫婦2人でビールをたくさん飲むのでそりゃあ太りますよね。男の子ママなので週末には唐揚げやおにぎりを大量に作ります。炊飯器も業務用を使っていますよ」
早紀さんたち夫婦にとって、お互いの見た目の変化は、セックスの頻度にはあまり影響はないようです。
「夫は美容室どころか床屋にも行かず、髪が薄いので自分でバリカンで刈っています。どうせ最中は部屋は暗いので見えませんし。セックスはお酒とかお風呂みたいな、習慣のようなものです。かっこつけることもないし、ロマンチックな雰囲気もありません。惰性みたいなものですかね。週末、寝る前に晩酌してふわふわした流れでそうなって、結果ほどよく疲れてよく眠れるんです」。
とはいえ40歳を過ぎて、どちらかが「疲れている」と断ったり、うまくいかずに途中で終わったりすることも「普通にある」そう。「そういうときは『えーそうなの、つまらない』とか『やばい、今日だめだ』とか、笑って流していますね」。
早紀さんは、前の夫と今の夫との決定的な違いは「プライドの高さ」だと言います。
「20代の頃の私は、痩せていてお肌もピチピチで今よりも綺麗だったと思います。でも自意識過剰で見栄っ張りの前夫にとって、マウントがとれなくなった相手は見た目は関係なく欲情の対象にならなかったんじゃないかと。『強い俺と弱い嫁』っていうストーリーが成り立たなくなって心身ともに萎縮していました」。
今でも東京という街には恐怖すら感じるという早紀さん。
「私の感想でしかありませんが、東京はセックスレスになりやすい街という気がします。食べたいとかセックスしたいという生理的欲求より、他人からどう見られているかを気にする承認欲求が優先されやすいというか……。20代の私も上昇志向があったから上京しました。そういう人が集まりやすいんじゃないでしょうか」。
たまにアパレル時代の友人のキラキラしたSNSを見て、羨ましくて凹むこともあるという早紀さん。それでも「もし20代に戻してあげると言われたら全力で逃げ出します」と迷わず言い切っていました。
※本記事では、プライバシーに配慮して取材内容に脚色を加えています。
取材・文/星子 編集/根橋明日美 写真/PIXTA
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