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【セックスレス AND THE CITY -女たちの告白-】「浮気はしたことがない」レス夫から離婚を切り出され…

日本では半数以上の夫婦が陥っているといわれるセックスレス。神奈川県内に息子と2人で暮らす41歳のシングルマザー・りえさん(仮名)は、過去には「セックスレスでも幸せな家庭」を築いているつもりでした。しかし、ある日突然夫から離婚を切り出され、生活が一変します。

■「浮気はしたことがない」という年下の誠実男性と結婚

小児科医師のりえさんが、カメラマンの草太さん(仮名)と出会ったのは、先輩女性医師の結婚式の二次会でした。

地元関西の国立大学の医学部に進学したりえさんは、都内の病院での研修医生活に入るタイミングで上京。初めて親元を離れましたが、IT企業で働く姉との同居生活は快適で、多忙ながら充実した生活を送っていたそう。
「ただ東京に出ても期待したほど華やかなことはなく、出会いは増えませんでした。顔の広い姉が飲み会を開いてくれたこともありましたが、こちらのスケジュールが不規則なのでなかなか次につながらず。やはり付き合う相手は同業者になりがちでした」。
そんなりえさんの周囲に限っていえば、「看護師と浮気したことのないイケメン医師はいない」という都市伝説は「当たらずとも遠からず」といった印象があるそう。「いない」は言い過ぎでも、男性医師が看護師と親しくなりやすいのは事実。
「研修医時代の元彼は同世代の医師でしたが、年上の既婚看護師との浮気が発覚。忙しくて大ゲンカをする暇もなく、険悪な会話を数回しただけで自然消滅しました」。

そんな折に先輩女性医師の結婚式で出会ったのが、新婦の弟だった2歳年下の草太さん。互いに好みのタイプだったようで会話も盛り上がり、2人は連絡先を交換して間を置かず食事に行くことに。
りえさんが元彼と別れた理由を聞いた草太さんは、「俺、浮気って一度もしたことがない。浮気や不倫をするくらいなら、別れてからすればいいのにといつも思う。順番を間違えなければ誰からも怒られないのに頭悪いなって」と自らの恋愛観を力説。「最初は誰でも『僕は浮気なんてしない』って言うよな、と思いつつも、本当に嫌そうな顔をしていたので見かけによらず真面目なんだなと好印象でした」。
2回目のデートでバスケットボール観戦に誘われ、試合観戦後のスポーツバーで告白されたといいます。「昔から子供好きだったので1人か2人は子供が欲しいと思っていました。後期研修が終わると30歳……そんなことを考えるとスピーディーな展開はありがたく、即OKしました」。

人懐っこい草太さんはすぐにりえさんの姉とも親しく話す関係になり、家族ぐるみの交際に発展。「彼は医師ではありませんでしたが、実家が産婦人科のクリニックで実姉も医師。私が当直やオンコールで呼び出される不規則な生活にも理解がありました」。ともに多忙だった草太さんとりえさんですが、草太さんはなにごとにも効率重視という性格で、3ヵ月後には半同棲状態に。りえさんが31歳になる年に2人は授かり婚をして、男児が誕生します。

■医師の仕事をセーブして小学校受験に注力

元々子供好きが高じて小児科を志望したりえさんですが、出産後には非常勤で働くことを選び育児中心の生活に。病児保育完備で福利厚生の手厚い往診サービスの会社に所属して週3日働きつつ、息子の小学校受験のために奔走します。
草太さんも、中古物件を購入してレンタルスタジオとして運用したり、念願だったスポーツ雑誌の仕事を請け負うなど絶好調。ワールドカップやオリンピックなどのイベントごとに海外出張する生活に。
「ワンオペ育児は多くなりましたが、テレビでスポーツ中継を見ていて、各国のカメラマンに混じって夫が果敢にスター選手ににじり寄って撮影している姿が映り込むと、『パパだよ』と息子をテレビの前に連れて行ったりもしました」。

すれ違い生活でいつしか性交渉はなくなりましたが、りえさんは悩んだことはなく、育児に夢中すぎて「気がついたらレスだった」という感覚。「息子は甘えん坊で少し気が弱いところがあり、いつも私とくっついていましたし、乳離れも遅かったんです。そんな状態でセックスをする余裕なんてないですし、それに息子が小学校に上がってもまだお互い30代なので、2人目が欲しくなったらその時にタイミング法で妊活をすればいいかなと軽く考えていました」。

息子が4歳になると、生後5ヵ月から通ったバイリンガルの保育園を卒業して小学校受験の合格率が高い有名幼稚園に転園します。保育園から幼稚園に移ったことで、子育て中心の生活は加速。「遊びの中に自然に受験対策を取り入れている」という触れ込みの近隣の幼児教室にも通い始め、りえさんはさらに子育てにのめり込むように。
「マイホームを購入する際には夫の実家の支援もあり、家族関係も表向きは平穏。転園した幼稚園は古き良き文化を大切にしているという校風で、『お花係』といって母親が教室に生花を生ける当番や、園内の掃除をするボランティアなんかも。なかなかストレスフルな毎日でしたが、同業の女医ママ友もできて愚痴を言ったりお茶をしたりしつつ乗り切りました」。

苦労した割には受験はすんなりとは進まず、国立の第一志望は抽選が外れ、私立の第一志望は落ちてしまいました。それでも第二志望だった、りえさんの父親の出身校でもある有名大学の付属小学校に合格。
ホッと胸をなでおろしたりえさんですが、そろそろ第二子のことでも考えようかと思った矢先に、草太さんから離婚の話を切り出されます。

■「離婚はしたいが一緒に住みたい」と主張する夫

すれ違い生活は続いていたものの、時には家族旅行にも行っており合格祝いのスキーにも行ったばかり。夫婦仲が良いと思っていたりえさんにとって、離婚話は寝耳に水でした。
「気になる子ができたんだ。フリーのカメラマンアシスタントで10歳年下の子なんだけど」。そうぬけぬけと言ってのけた草太さんは、さらに信じられないことを言い出します。「浮気はしてないよ。その子とのLINEを見てくれてもいいし、興信所に頼んで調べてもかまわない。やましいところはないから。でも離婚しないとちゃんと好きにもなれないでしょ。りえとはセックスレスだし、既婚者っていうだけで、気になる子ができてもどうにもならないっていうのが虚しくなってさ。このまま一生セックスレスで人生終わるのかなって思うと鬱になりそうなんだ」。

呆然としたりえさんが「そう思う前にやることがあるでしょう?レスを解消するために夫婦で話し合うとか」と言い返したところ、草太さんは「その方法は気が付かなかった。でもとりあえず籍は抜いてほしい。もう決めたことだから。このままの状態ではセックスをするのも義務的になりそうだし、お互い独身に戻って自由恋愛でまた僕とりえがパートナーになるならそれもアリじゃない?」と悪びれもせず、さらにりえさんを怒らせました。
加えて「離婚はしたいが息子とは離れたくない」という主張まで。「このまま同居して子育てのパートナーとして生活しよう。離婚しても同居しているカップルって最近では珍しくないっていうじゃない」という草太さんに「珍しくないわけないでしょ」とりえさんが言い返しても、「僕の周りでは事実婚も珍しくない。ともかく籍は抜いてください」の一点張りだったといいます。

■「マンションは譲り受ける」という好条件で離婚

実際に草太さんと「気になる子」とのLINEを見せられたりえさんですが、《この前の撮影からなんだか君が気になって、夢にも出てきた。今度ご飯でも行かない?》と好意を示す草太さんに対し、相手の女性は《みんなで行きません?奥さんいるじゃないですか。不倫は訴えられそうで嫌なので離婚してから言ってください》と、苦笑いをしている猫のスタンプを添えていました。

「LINEを見る限りでは脈がないのかあるのか判然としないというか、どちらかというと振られている気すらしました。だから余計に、そんな状況で離婚を切り出す子持ち男の精神状態が理解できませんでした」。離婚したいと思ったのは、産後からのセックスレスが原因だと主張した草太さん。授乳をしている時期に抱きついてきた草太さんに対して「疲れているから」と性交渉を数回拒否したこともあるりえさんには、心当たりがありました。そこでインターネットで「性交渉は離婚理由になるかどうか」を検索します。
結果、一方的な性交渉の拒否が「婚姻を継続しがたい重大な事由」だと認められる状況であれば認められるものの、「病気・体調不良、妊娠、老齢、一時的な多忙や疲れによるセックスレス」など、客観的にやむを得ないとされる場合は認められないという記述を発見します。「産後6年間のワンオペ育児ぶりを思えば、多忙や疲れ、体調不良を理由にすることはできそうな気もしました」。

育児は「気が向いた時や頼まれた時にまとめて引き受ける」といったスタンスだった草太さんですが、息子との仲は良かったため、一時は籍を抜いてから関係を立て直すためにカウンセリングに行くことも考えたりえさん。「でも自分の中の正義や主張を繰り返すばかりで人の話を聞かない夫に得体のしれない違和感を覚えて、『ローンが終わっているマンションを譲り受ける』『離婚後の同居はしないが子育ては協力して行う』という条件で離婚をすることにしました」。
いざ離婚してみると草太さんは、年に1回程度しか息子と面会をしていないそう。現在は転職してシンガポールに住んでおり、「気になる子」とは違う中国人の彼女ができたと友達づたいに耳にしました。

■夫の親は「あの子は昔から融通がきかない」と証言

「離婚を報告した時、うちの母親は『死んだお父さんが生きていたら何と言うか』と夫に激怒しましたが、夫の両親や姉はどこか想定内といった雰囲気。口では『馬鹿な弟が本当にごめんなさい』『子供がいるのになんて無責任なバカ息子』と言ってくれましたが、義理の母の『あの子は昔から融通がきかないというか、一度正しいと思ったらこっちのいうことを聞かないから』という言葉と、諦めたような表情が印象に残っています」。

「コミュ力が高いのに真面目」だと思っていた草太さんの性格ですが、今思うと出会った当初の「絶対に浮気はしたくない。それは順番が違う」と力説した時の口調には、自説へのこだわりの強さと頑固さが現れていたように思えるそう。「コミュニケーション能力の高さも、天性のものというより、経験則に基づいて後付けで身につけたタイプのような気がします。外では如才なく振る舞っていましたが、SNSでは自分の常識から外れた発言をする見知らぬ相手を論破して楽しんでいるような傾向があったりもして、少し気にはなっていました」。
社交的なのに浮気をしない「できた男」に思われた草太さんでしたが、「自分の中の正義やこだわりを曲げることができない永遠の中学2年生」のような一面があったと、りえさんは振り返ります。「そこに中年の危機が重なって、アラフォーで自分探しの旅に出ちゃったんでしょうね。でも養育費はきっちり振り込んでくれるので私の生活自体は以前よりラクです。彼氏は今のところいませんが、家事も減りましたし息子と水入らずの楽しい生活を送っています」。

来年、息子はシンガポールに短期の語学留学に行くことになり、父親のマンションにステイすることになっているそう。男性としては「理解不能でめんどくさい相手だった」という草太さんですが息子の父親として良い関係を続けたいと話すりえさんは、「私との相性が悪かっただけで、嫌な人間とも男運が悪いとも思っていません。彼をマメにかまってあげる女性とならうまくいくんじゃないですか?」と冷静に分析していました。

※本記事では、プライバシーに配慮して取材内容に脚色を加えています。

 取材・文/星子 編集/根橋明日美 イメージ写真/PIXTA

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