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音楽家・矢野顕子さん「普段は〝老人食〟。たまのご褒美はフレンチフライ」

’81年にカネボウのCMソング「春咲小紅」で一世を風靡し、今年デビュー45周年を迎えた音楽家の矢野顕子さん。60歳を越えてから、「宇宙に行きたい」という夢を実現するために水泳を習い始めたと聞いて勇気づけられました。そのパワーの原動力、美容、そしてニューヨークの日常生活について伺いました。

辛いこと、苦しいことがあっても、自分が変われば乗り越えられる

ファンクラブのコンサートを開いたこともある「汐留ベヒシュタイン・サロン」で。2017年に発売したアルバム『Soft Landing』の録音で弾いたのをきっかけに、自宅でもベヒシュタインのピアノを愛用。「ベヒシュタインはなかなか難しいピアノ。何度も調律を繰り返し、今や相棒になりました」

《Profile》
’55年東京都生まれ。’76年アルバム『JAPANESE GIRL』でソロデビュー。’81年「春咲小紅」がヒット。’90年のNY移住後もコンスタントに作品を発表しながら、積極的に活動。宇宙好きとしても知られ、宇宙飛行士の野口聡一氏との共著『宇宙に行くことは地球を知ること』(光文社)を上梓。今年デビュー45周年を迎え、アルバム『音楽はおくりもの』を発表。

先日NYの家でのんびりしていると、「今日のゲストはBTSです!」と、アナウンスが聞こえてきた途端、思わず音量を上げて、彼らの音楽に合わせて私も一緒にテンポよく踊り出しました。そうすると笑顔になりますよね。

テレビ越しであっても、好きなアーティストの姿を見ると楽しくなるし、元気をもらえます。もしかしたら、私がライブで歌ったり、ピアノを弾いている姿を見て、元気になってくれる方もいるのかもしれない。そう思うと嬉しくなりました。

NYに暮らし始めて30年。仕事は日本でもしているので、年に数回行き来しています。NYは私にとって、いちばん長く暮らした街になり、反対に今や日本が異文化なんです。

コロナ禍で改めて実感した人を癒す音楽の力

永住するつもりで、家族でNYに移住したのは’90年。子供が14歳と9歳でした。それまで何度も仕事で行ったことはあったものの、実際住むとなると大違いでした。言葉はもちろん、学校、文化、何から何まで違うので、戸惑うことが多かったけれど、面白かったですね。仕事をするうえでも、考え方の違いで誤解が生じて大変な思いをしたり、人種的なことで理不尽なこともあったけれど、そういうことって起こって当たり前。起こった事実に対して不平不満を言うより、「そういうことなのね」と捉えて、自分の考えを変えるよう努力して乗り切りました。社会体制は変えられないですから。

それに、この街では誰も私のことを甘やかさないでいてくれる。「あなたの音楽を見せてほしい」とチャンスが巡ってきたら、すぐにそのときの私のベストを出せるよう常に全力で音楽に取り組んでいました。私には音楽という自分のアイデンティティを表明する手段が明確にあったので、日本に戻りたいと思ったことはありません。

NYも昨年からのコロナ禍で、食料の調達と簡単なジョギング以外は家から一切出られない生活が続きました。それまで友人としょっちゅう会ったり、ライブに行ったりしていた生活が何もかもなくなりました。自分から音楽に触れに行くこともできなくなり、ずっと家にいるとしょんぼりしちゃうんですね。そんなとき、ふっと大好きなキャロル・キングの歌が聞こえてきました。一緒に歌っていると心が楽しくなって、音楽の力ってこんなに大きいんだ、幸せな気持ちになるんだと改めて感じました。大好きな大貫妙子さんのCDも久しぶりに聴いて、癒されたりもしました。考えてみれば、私は音楽を提供する側にいる人間で、みんなに幸せな気持ちになってもらうことができるかもしれない。そう改めて感じ、音楽家であることを本当にありがたいと思いましたね。

音楽は世界を救うことはできないけれど、ただただ人を慰めたり、励ますことはできる。そうやって励まされた人がそこから何かを始めることはできます。自分の音楽で誰かを元気づけようとも思っていないし、反応してくれたらそれだけで十分。でも、悲しい思いをしたときは、歌を聴いて、一緒に泣いて。わーっと泣いた後って、気持ちがすっきりするものです。こういう時代だからこそ、音楽に感謝をし、改めて伝えていきたいと思いました。

化粧品はこだわりますが、追求はしていません

音楽以外は、もともと雑な性格なので、どうすればラクができるかという道を探るほう。美容も然り。追求する気はないものの、使っている化粧品には結構こだわっています。特にSK-Ⅱがお気に入りで、桃井かおりさんがCMをやっていた頃から使っています。フェイシャル トリートメント エッセンス、スキンパワー クリームとアイクリームも使っています。乳液だけはコスメデコルテ。ヘアメークさんに教えてもらって、5年以上リピートしています。こだわりはお化粧をちゃんと落とすこと。クレンジングは、フランスのニベアと言われているラ ロッシュ ポゼのクレンジング ウォーターを。水みたいな使用感だけど、しっかり落としてくれます。アイメークはランコムのポイントメイクアップリムーバーで。NYはとにかく乾燥しているので、できる限り保湿はしていますが、ニキビが出ることもないし、トラブルはあまりないですね。肌が丈夫なのですね。親に感謝です。

メークも、NYでは下地のみ。欠かせないブリリアージュの下地は、肌のトーンが上がって、ファンデ効果もあって気に入っています。日本でまとめ買いして、NYに持ち帰っています。ファンデやアイシャドウ、チークもブリリアージュ。代表の嶋田ちあきさんは古い友人。彼が一生懸命吟味して作ったものは信頼していて、実際色物は発色がよく、ギラギラもしていないので、年齢的にとても役立っています。エステサロンには行ったことがありません。日本に来ると決まってお願いするマッサージ師の方がいて、ついでに顔までやっていただく程度です。

「自尊心を高める」と言われて40代で運動デビュー

20歳で長男、25歳で長女を出産したので、40歳で長男が、43歳で長女が独立。それぞれの道を歩み、仕事が終わって、帰宅後急いでご飯を作らなければいけない状況から解放されました。一方で子育てが終わったエンプティネスト症候群を痛切に感じた時期でもありました。そこで自分は何者かと考えて、どんな音楽を作るかを真剣に構築し始めた時代。料理や家事やインテリアには興味がなく、ひたすら音楽に力を注いでいました。振り返っても、40代になってからの作品は随分頑張って作っていたと思います。

同時に始めたことが運動でした。子供の頃から運動が苦手で、通信簿で体育は常に3。運動音痴だと思い込んでいたし、幸い体型の変化がなかったので「何とかしなくちゃ」と感じることもなく、運動をしてこなかったのです。ところが、当時一緒に作品を作っていたアメリカ人のドラマーが、「一緒にジムに行こうよ」と言うんです。「え、何で?」と答えると、「体を作ることもできるけど、何よりも自尊心を高めるよ」と言います。自尊心が低いわけではなかったけれど、その言葉に妙に惹かれて、思いきってジムに入会しました。最初はトレッドミルを10分から始め、次第に15分、30分と延びて、「できるじゃない、私」と驚き。彼は、やればできることを自分自身が見いだし、私に勧めてくれたのです。運動の効果は肉体の部分はもちろんのこと、メンタルに与える影響がとても大きいと思います。それ以来、常に運動は欠かせないものとなり、ジムを週2~3回、そのうち1回はコーチについて水泳をしています。本気で宇宙飛行士になりたくて、水泳を始めたのは60歳を過ぎてから。

さらに1年半前からバレエも始めました。子供の頃からの憧れで、いつかやりたいと思っているうちに60歳を過ぎてしまって。アメリカ屈指のダンスカンパニー「アルビンエイリーアメリカンダンスシアター」に所属する日本人の先生に週1回家に来ていただき、個人レッスンを受けています。基礎レッスンを中心に、いまだにできていないですが、基本のプリエをやってジャンプの真似事も。年齢的に足を180度開くことは絶対できないけれど、ケガをしない、無理をしない範囲を守りつつ、ちょっと限界を超えるくらい頑張る私もいるので、そこをよく見て、いい匙加減でレッスンしてもらいます。結構いい運動で、終わる頃にはフーフー汗をかいています。バレエと水泳、それぞれに違う筋肉を使うので、どちらもなくてはならないものになっていますね。

子供を育てているときは、自分のことが後回しになりがちです。健康に関してもですね。でも体を動かすと、風景が違って見えてくるものです。

普段は〝老人食〟。たまのご褒美はフレンチフライ

ダイエットらしいことはしていませんが、帰国すると太ります(笑)。特に今は2週間の隔離期間があるので、どこにも出かけることができず、ホテルでテレビを見ながら何か食べちゃう。何よりも東京は美味しいものがたくさんありますからね。大好きなラーメンはNYにもありますが、日本での楽しみにしています。でもNYに戻ったら、誰もやってくれないから、料理も掃除も家事は全部自分でするので、すぐに痩せます。

食事は茄子の煮びたしや、ひじきを煮たもの、乾物など。自分では〝老人食”と言っています。麺類も大好きで、一日一麺と決めて、パスタやうどん、そばをお昼に食べて、午後は動いて消費。たまにご褒美で近所のお店の絶品フレンチフライをいただきます。毎朝体重計に乗るので、翌日は体重が……とやや怯みますが、「運動すればいいや」と割り切っています。

私の歌にはラーメンや魚肉ソーセージなど食べ物が多く出てきます。多くのアーティストの歌の題材は恋愛ですが、恋愛しなくても死なないけど、食べなきゃ死ぬ。あえてどっちが大事かと言うと食べること。だから自然と食べ物の歌が多くなるのです。

誰しも、どんな人間になりたいか、どんな人間として評価されたいかを考えると思います。こういうふうになりたい、でも無理かな、無理じゃないと自問自答して、目標が定まったら、それに近づくようにアクションを起こさなければ。経験上、絶対に近道はないですから。どんなアクションを起こせばいいかは、よく考えて、頭を使うことだと思います。お金とやる気だけでは達成できません。取り入れる情報、お付き合いする人々、聴く音楽、見る景色など、その積み重ねのすべてが自分を作っていくわけです。だったら値段の張るブランド品のバッグを買うよりも、良いコンサートに行くこととかお芝居などにお金を使ってきました。自分の精神性と感情面のケアになるからです。

30代までは欲しいものを何でもかき集めていましたが、40代でどうでもいいものがわかって、50代になると選び抜いたもので暮らし始めます。60代の今は、さらにほんのちょっとの大切にしたいもの、譲れないものがはっきりして、ラクになりました。食事に例えると、ご馳走はたまにでいい。毎日は煮びたしで十分。それで快適に生きられることを知ったということです。足るを知る。美しい人というのは、自分の分を知っている人。私もそうありたいと願いながら、失敗ばかりしてますけどね。

振り返ると40代はチャンスの時代。体が動き、見かけも30代の延長、経済的にも余裕が生まれる。だからやりたいことはどんどんやらなければ。いい50代、60代にするための最大の山場の時期ではないかしら。

ここ数年、日本語放送でNHKの朝ドラを観るのが楽しみです。今回の「おかえりモネ」は最高でした。NYでは夜9時45分から始まり、録画ができない契約なので、毎晩その時間にはテレビの前に座って待っています(笑)。先月、1年半ぶりにブロードウェイも再開。音楽やアートには、本当に力があります。

矢野顕子さんから40代に伝えたいメッセージ

生きていくうえでの私の〝黄金律〟。自分が選べる状態が前提ですが、どっちがいいのかなと迷ったとき、自分は損をするかもしれないと思っても、誰かが喜んでくれるほうを考えて選びます。

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2021年『美ST』12月号掲載
撮影/佐藤航嗣(UM) ヘア・メーク/岩尾清司(vierge) 取材・文/安田真里 編集/和田紀子

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