PEOPLE
20代やアラサーの頃、女友達と夢中になった恋バナや婚活の話。でも年齢を重ねるにつれ、いつの間にか恋愛トークから遠ざかってしまった人も多いのでは。
大人の女性たちは、今どんな恋愛をしているのだろう。今回紹介するのは、恋愛にも結婚にも完全に興味を失い、おひとり様を貫く43歳 ゆかりのストーリー・前編。
【INDEX】
――ゆかりさん、お久しぶり。来週金曜日、男女4:4でお食事する予定です。よかったら来ませんか?
土曜の朝、布団の中で目をこすりながらスマホを眺めていたゆかりは、そのメッセージを見て思わず飛び起きた。
「これって……合コンってこと?」
一気に目が覚めた。43歳になって「男女4:4」のお誘いがくるとは、思ってもみなかったのだ。
LINEの送り主である舞とは、紹介制の料理教室で出会った。ハイセンスな料理とテーブルコーディネートが学べるのは興味深かったが、仕事が忙しいゆかりにはスケジュールが合わず、長続きはしなかった。
舞とはそれ以来、連絡を取っていない。あまり多くのことを話した記憶はないが、美人で優しい雰囲気の女性だった。教室の帰り道に電車が一緒になって成り行きでLINEを交換したが、こうして久しぶりに連絡がきたのだ。
「男女4:4」という、ずいぶん懐かしい言葉の響き。20代や30代前半くらいまでは数えきれないほど合コンに行き、出会いに困ることはなかった。ところが気づけば、かつての婚活の戦友たちは次々と結婚し、一緒に飲み会に繰り出す仲間がひとり、またひとりと減っていく。仕事以外で男性との出会いはほとんどなくなった。
30代後半くらいまでは結婚願望もあったし、子どもも欲しいと思っていた。しかし40代になるとその気持ちは自然と薄れ、それよりも最近は、この先ひとりでもどれだけ人生を楽しめるかを考えることの方が多い。最近は一人飲みにハマっていて、ふらりと行ける居心地のよい飲食店を開拓中だ。
――そういえば、舞さんって独身だったっけ?
遠い記憶をたどると、彼女が夫の話をしていたような気もする。とはいえあれから数年が経っているし、離婚だって今どき珍しい話ではない。舞もまた、新しい出会いを探しているのかもしれない。
そう考えると、少しだけ心が浮き立った。年齢に関係なく、出会う人は出会っているのだ。
ふと、会社の若い後輩たちの話を思い出した。最近の若い人たちは合コンなんて行かないらしい。聞けば合コンは、マッチングアプリに比べて効率が悪いのだとか。令和の20代は恋愛もタイパ重視のようだ。
そんなことを考えながら、ゆかりは久しぶりにクローゼットの前で服を選んでいた。少し迷ったものの、舞主催の食事会に行ってみることにしたのだ。
――意外といい出会いがあったりして。
しかし、そんな淡い期待はあっさりと砕かれた。
参加者のうち、ゆかりを除いた7名はなんと全員既婚者だったのだ。
◆
麻布十番の高級イタリアンレストランの個室。そこには8名の大人の男女が集い、ワイングラスを片手に談笑している。その中で、ゆかりだけは硬くひきつった笑顔を浮かべていた。
男性陣は皆、「イケオジ」という言葉がぴったり似合う40代。女性陣もアラフォーくらいだろうか。舞以外の二人は初対面だが、二人とも優しくて上品なオーラを纏った美人だった。
ゆかりは早くも冒頭で異変に気づいていた。いわゆる合コンらしく一人ずつ自己紹介が始まったのだが、なぜか決まって「お子さんは?」という質問が飛び出すのだ。
そして自己紹介がゆかりの番になったときも、やはり男性のひとりがにこやかに尋ねた。
「お子さんは?」
ゆかりは一瞬、口ごもった。
「えーと……子どもどころか、私、結婚もしていないんですが……」
ほんのわずかに、その場の空気が止まった気がした。すかさず幹事の舞が声を上げる。
「あれっ……ゆかりさん、ご結婚してるかと勘違いしてた。ごめんなさい!」
「……もしかして、皆さん、結婚されてるんですか?」
「そう。今日ここにいるメンバーは、全員既婚者で子どももいるんです。今日はちょっと、皆で息抜きに飲もうってことになって」
“上品な妻”を絵にかいたような舞のイメージが崩れていく。ゆかりは動揺のあまり目をそらした。しかし彼女はこちらをまっすぐ見て、にっこりとほほ笑んでいる。
その後は、既婚だとか未婚だとか、子どもの有無が話題にのぼることは一切なかった。
――これが世にいう……“既婚者合コン”ってやつ……!?
WEBメディアの記事か何かで、既婚者同士の出会いの場があり、“相手”を探している人たちがいるという話を読んだことはある。お互い既婚者なら後腐れがなく、都合が良いのだとか。しかし、どこか都市伝説のようなものだと思っていた。
――なんだか潜入取材みたい。これはこれで、新鮮な経験かも……。
その後は会話が盛り上がり、お酒が進むにつれて誰もが饒舌になっていく。気づけばラストオーダーの時間になったが、皆当然のように二次会に行くのだという。
「ゆかりさんも、もちろん行くよね?」
「え、ええ……」
舞にがっしりと腕を掴まれ、その手を振りほどくことはできなかった。二次会の場所は、港区内の会員制バーだ。シャンパンボトルがポンポン空き、誰かがオーダーしたテキーラショットが人数分ふるまわれた。いつの間にか男女で際どい質問をし合うゲームまで始まり、相当盛り上がっている。
一次会ではダンディなイケオジだった男性陣は、お酒で顔を赤らめ、学生のような下ネタに沸いている。上品な笑みを絶やさなかった女性陣もいつしか大口を開けて笑い、すっかり羽目を外していた。
気づけば時刻は深夜2時。周囲を見渡すと、皆泥酔状態だ。家庭は大丈夫なのだろうか……? 余計なお世話と思いつつも、そう思わずにはいられない。ゆかり自身もかなり飲んでいたはずだが、不思議と酔いは回らなかった。
――まさか、既婚者合コンに放り込まれるとは……。
帰りのタクシーの後部座席に深く沈み込み、ゆかりは不思議な感覚に包まれていた。なんだか覗いてはいけない秘密の部屋の扉を開けてしまったような、そんな気分だ。
それにしても――。
今夜あの中から、いったい何人の男女が“次のステップ”に進むのだろう。
ゆかりは昔から、男女関係には潔癖なほうだ。不倫なんてもってのほか。以前、既婚者合コンなるものが存在するらしいと初めて聞いたときには、嫌悪感さえ覚えた。
でも今日の飲み会では、お酒の勢いもあって確かに男女の距離は近かったし、大学生のような下ネタや際どいゲームまでしていたけれど、さほどいやらしさは感じなかった。
――ただ飲み会がしたいだけ? それともやっぱり “そういう相手”を探してるのかしら?
今夜出会った既婚者たちは、とにかくエネルギッシュだった。家庭もあって、育児も仕事もあるはずなのに、どうしてあんなに活力に満ち溢れているのだろう。
家族もいて、可愛い子どももいるけれど、それでも彼らはまだ何かを欲しがるのだろうか。自分よりずっと生き生きとしているように見えた。そして何だか艶っぽかった。
――あんなふうに、人生に貪欲になれたなら。
呆れるような、少し羨ましいような。妙な気持ちを抱えながら、ゆかりは窓の外を流れる夜の街を眺めていた。【後編に続く】
【次回予告:10歳年齢を偽り、40代女性が出会いの場所へ……】
※本記事では、プライバシーに配慮して取材内容に脚色を加えています。
取材・文/小泉 幸 編集/岩崎利架 イメージ写真/PIXTA
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