PEOPLE
20代やアラサーの頃、女友達と夢中になった恋バナや婚活の話。でも年齢を重ねるにつれ、いつの間にか恋愛トークから遠ざかってしまった人も多いのでは。
大人の女性たちは、今どんな恋愛をしているのだろう。今回紹介するのは、恋愛にも結婚にも完全に興味を失い、おひとり様を貫く43歳ゆかりが体験したストーリーの後編。
淡い期待を抱いて参加した飲み会が、まさかの既婚者合コンだった。エネルギッシュな既婚者男女に衝撃を受けるゆかりだが……。
【INDEX】
「……それでね、出会いをちょっと期待して、服装もメイクも気合いを入れて行ったら、なんと男女ともに全員既婚者だったってわけ……」
あの奇妙な飲み会から、約1カ月。久しぶりに大学時代の友人・美紀と会い、恵比寿のワインバーで食事をすることになったゆかりは、先日の既婚者合コンの顛末を話して聞かせていた。
美紀は同い年の43歳。結婚して二人の子どもを育てるワーキングマザーだ。学生時代から明るく社交的で、それこそ昔は一緒に合コンにもよく出かけた仲だった。
当時は、指輪を外して独身のふりをした既婚者男性が合コンに紛れ込んでいることもあり、それが発覚すると女たちは激怒したものだ。ところが先日の飲み会では、むしろ既婚者であることが参加条件のようだった。独身のゆかりのほうが、すっかり場違いな存在になっていたのだ。
「それにしても、舞さんには驚いたなあ……」
ゆかりは、飲み会の幹事だった舞のことをふと思い出し、ぽつりと呟く。清純なイメージだった舞が、テキーラを何杯か飲むと豹変した姿が忘れられないのだ。
「ゆかりってば、大学の時から変わってないね。相変わらずお堅いんだから。私の周りの人妻なんて、基本みんな年下彼氏いるよ? 既婚者合コンなんて、かわいいもんだって。ま、彼らもその後そういう関係になってると思うけどね~!」
ケラケラと笑う美紀を、ゆかりは呆れて見つめていた。こちとら何年も前から出会いがないというのに、既婚者の彼らのほうがよっぽど男女の出会いに恵まれている。なんだか不平等である。
「あの飲み会に来てた子たち、みんなハイスペックな旦那さんがいて、可愛い子どもがいて、都内の高級マンションに住んで。何でも手に入れているように見えるのに、年下彼氏やら合コンやらずいぶん欲張りなのね……」
何だかやりきれない気分だ。ゆかりが思わず深いため息をつくと、美紀は肩をすくめた。
「みんな育児や旦那の相手でストレス多いからね。息抜きしながらじゃないと、家庭のことも頑張れないよ。私からしたら、ゆかりのほうが独身で自由で、よっぽど羨ましい。40代って若い頃よりお金もあるし、最高じゃない? 私がゆかりだったらもっと遊びまくるけどね」
「そうなの……?」
幸せな家庭を築いて安定した人生を送っているように見える友人から、「羨ましい」なんて言われるとは思っていなかった。予想外の言葉にたじろいでしまう。
その後もふたりは他愛もない話をしながら、のんびりとワインを楽しんでいた。するとふいに、美紀がいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ねえ……実は私、今夜自由なの」
聞けば、夫が「たまには羽を伸ばしておいで」と、子どもたちの面倒を引き受けてくれたらしい。今夜は久しぶりに時間を気にせず遊べるのだという。美紀はそっと耳元で囁いた。
「せっかくだから、もうちょっと飲まない? ……いいところ行こうよ」
◆
美紀に連れていかれたのは、若い男女の出会いの場として知られるバーだった。ゆかりの世代にはあまり馴染みがないが、都内のあちこちに店舗を構えているらしく、20代の部下からもその店名を聞いたことがある。
「ちょ、ちょっと待って。ここって、若い子たちが出会いを求めて来るところじゃないの?」
ゆかりはエントランスの前で、思わず美紀の腕を強く引いた。次々と男女が店内に吸い込まれていくが、どう見ても20代、せいぜいアラサーくらいだ。43歳の自分たちが入るには、いささか場違いな気がする。
「ねえ、さすがにうちらの歳ではまずくない?」
「大丈夫だって……」
美紀はそう言いかけたものの立ち止まり、ゆかりの顔をじっと見つめる。そしてバッグから化粧ポーチを取り出した。
「ちょっと、失礼しまーす」
慣れた手つきでゆかりの唇にグロスをたっぷりと塗り、今度は頬にパウダーをはたき始める。
「何してるの!?」
「これ塗ると、毛穴が目立たなくなって肌がめちゃくちゃ綺麗に見えるの。……っていうか大丈夫。そもそも店内は暗くて、年齢なんてバレないから!」
美紀は、ゆかりの戸惑いなどお構いなしだ。店の入り口ではまさかの年齢確認が待っており、一瞬ギクリとしたものの、身分証を見せるとあっさり通過できた。
――は、入れた……。
もっとも、身分証に記された生年月日を見て、スタッフも内心驚いたのではないだろうか。何しろ、周りは自分たちよりひと回りもふた回りも若い客ばかりなのだから。
ところが店内に入ってから、ゆかりはさらに驚くことになる。なんと、美紀が次から次へと声をかけられ、モテまくっているのだ。
「お姉さんたち何歳なんですか?」
さっそく声をかけてきた若い男性二人組に、美紀は涼しい顔で答えた。
「33歳!」
平然と10歳もサバを読んでいる美紀の言葉に、ゆかりは唖然とする。しかし男性たちは、「えー、全然見えないっすね!」などと嬉しそうに話しかけてくるのだ。
確かに美紀は美人だし、43歳になった今もスタイルがよく、華やかな雰囲気がある。ゆかりだって実年齢より若く見られることは多い。けれどさすがに20代やアラサー男女の主戦場で声をかけられるとは思っていなかったし、もちろん悪い気はしないが、同時に後ろめたさも感じていた。
二人組が去ったかと思えば、また別の二人組がやってくる。美紀はすっかり慣れた様子で、誰とでも楽しそうに会話を弾ませていた。
――いやいや、この子たちどう見ても20代……。下手したら産んでたよ!?
ゆかりが内心ひとりで慌てている間にも、美紀は男性たちと乾杯して盛り上がっている。さらに驚いたことに、そこで知り合った男性二人と意気投合し、なぜか4人で2軒目に行くことになってしまった。
ゆかりは年齢や仕事の話になるたび、適当に笑ってごまかしていたが、美紀はというと、隣に座った男性とかなりいい雰囲気になっている。顔を寄せ合って楽しそうに話し、帰り際にはちゃっかりLINEまで交換していた。
「あー、楽しかった!」
すっかり夜が明け始め、空はうっすらと白んでいる。男性たちと別れ二人でタクシーに乗り込んだ後も、美紀はずいぶん満足げだった。しかし、意外だったのはその後だ。
スマホを取り出すと、先ほどLINEを交換した男性をあっさりブロックしたのである。
「え、なんでブロックするの?」
「え? だって、もう二度と会わないもん」
美紀はあっけらかんと答え、大きなあくびをしたあとで言った。
「さあ、帰ったら子どもたちのお弁当作らなくちゃ!」
つい先ほどまで一回り以上年下の男性たちとテキーラを飲み、ナンパバーで無双していた人物のセリフとは思えない。気づけば隣でウトウトしている友人の寝顔を見ながら、ゆかりはしみじみと考えた。
先日の既婚者合コンで出会った男女も、今夜の美紀も、信じられないほどエネルギッシュだった。
もちろん、彼らの行動すべてに賛同できるわけではない。けれど、何年も恋愛から遠ざかり、新しい出会いすら面倒に感じていた自分には、彼らの底知れぬバイタリティがまぶしくて、なんだか背中を押された気がした。
もう少しだけ、人生に貪欲になってみようか……?
今度何かに誘われたら、面倒くさがらずに顔を出してみよう。もしかしたら、思わぬところに出会いのチャンスが転がっているかもしれない。
もっとも、次こそは大人の独身男性と出会いたいものだけれど。ゆかりは小さく苦笑しながら、押し寄せる眠気に身を任せた。
※本記事では、プライバシーに配慮して取材内容に脚色を加えています。
取材・文/小泉 幸 編集/岩崎利架 イメージ写真/PIXTA
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