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「内面が顔に出る」とよく言われますが、若い頃はきれいでも歳をとったら魅力が失われてしまう人がいて、反対に歳をとってからグッと魅力的になる女性もいます。それは内面と関係があるのでしょうか。そんな長年の”もやもや”を解決すべく、美容ジャーナリストの齋藤 薫さんにお話を伺いました。歳を重ねるごとに美しさが増す人にはどんな共通項があるのでしょうか。
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「全てを善かれと祈り続ける者でありたい」。上皇后美智子さまが60歳の誕生日に残された言葉は、今振り返っても何だか胸が熱くなる。被災地に赴いて人々の声に耳を傾ける姿は、まさに祈り。静かな微笑みをたたえて相手を温かく包み込む表情は、日本の慈母のよう。だからだろうか。この方の存在を目にするだけで、何か心がポッと温まり、幸福感に包まれる。そうやって視覚に訴えて人の心を癒せることまでを含めて、内面から滲み出る美しさというのだろう。
内面が外見の美しさを作る。内面の美しさこそ大事……今までどれだけの人や本がそう訴えてきたのだろう。誰も否定できない正論だけに、まずは、知るべきなのだ。内面が介在しない形だけの美しさは、50代以降もう不自然に見えてしまうということを。
美智子さまは疑いようなく、内面で慈悲深い顔立ちを作られてきた。紛れもなく美しく、いつも笑みをたたえてきた方、でもその奥に重圧や苦悩を潜ませてきたことは想像に難くない。それを経たから徳を積み重ね、人々の祈りであろうとすることで慈母のような穏やかな美しさに到達されたことを、私たちはよく知っている。苦悩が知性美となり、徳が優しさ穏やかさになり、年齢が奥行きになり、大人にしか醸し出せない美しさやオーラを築きあげることも。
同じように菩薩の顔を持った人に、瀬戸内寂聴さんがいる。煩悩に忠実に生き、愛憎入り混じる壮絶な人生を経て、出家という究極の選択をした人は、悟りを求めて衆生を救うために多くの修行を重ねる中で、文字通りの菩薩になっていった。晩年の笑顔は、全ての人に寄り添うような温かさ寛大さに満ちていた。意志の強さや才能は変わらずとも、作家の業のようなものが感じられた若い頃の険のある面立ちとは正反対の、月のようにまろやかで艶やかな、真顔が笑顔の菩薩顔に。人の顔はこんなにも変わるものなのかと驚かされた。人生がそのまま顔立ちになることをこれほどドラマチックに体現している人はいないのだろう。
“内面で善い顔を作ってきた人”は歳を重ねるほどに美しくなる。それはずっと顔を見ていたくなる美しさ。人が持つべき美の本質だ。99歳で亡くなるまで愛らしくあり続けた寂聴さんの柔らかな菩薩顔のように。これこそを奇跡と呼び、賞賛すべきなのではないか。
そういう意味でもう一人、「女性は歳を重ねるごとに美しさを増す生き物(The beauty of a woman only grows with passing years)」と主張し続け、内面が顔に出る事実を身をもって伝えた人がいる。実はそれがオードリー・ヘプバーン。20代の頃の妖精のような美しさは未だ憧れの的だが、晩年のこの人は年齢なりの多くのシワが刻まれるも、ハッとするほど美しい笑みをたたえていた。逆に30代40代よりむしろ輝いて見えたほど。彼女はパートナーの裏切りに2度の離婚、また4度の流産で心身ともに疲弊していた時期があった。30代半ばで華やかなハリウッドを去り、子供たちと暮らすためスイスの郊外に移り住んでいるのも、女優として喝采を浴びるより、真の家族愛を求めていた証しだ。でも最後の10年は新しいパートナーも共に暮らし、今が人生で最高に幸せと語っている。そして同時代の女優が美貌にしがみつき整形を繰り返している時に、難民キャンプを巡り献身的な慈善活動を行っている。だから難民の子供を抱く素顔のこの人は聖母マリアの顔になったのだ。もちろん人生において何が正解とは言えない。でも善い顔になる人の人生には絶対の共通点がある。常に他者のためを考えるスタンスだ。
かくして自分より相手を優先するメンタリティーを持ってさえいれば、人は必ず内側から美しくなる。競わずに無欲なら、美しさは勝手に後からついてくる。だからもう、誰よりキレイでなければと、がむしゃらにならなくていい。そうやって勝ち取った美は結構脆い。美しい人を美しいと心から褒めることができる人が美しいのだから。本質の正しさに人々が気づく時代、美の基準はどんどんそちらに向かっている。内面が美しさを育てる時代へと。
[写真1枚目]上皇后美智子さま。1934年10月20日ご誕生。84歳、皇后として最後のお誕生日のお写真は、穏やかですべてを慈しむような微笑み。[写真2枚目]瀬戸内寂聴さん。井上との関係清算のため1973年(51歳)に出家し、1974年に京都・嵯峨野に「曼陀羅山 寂庵」を開く。その後、1992年『花に問え』で谷崎潤一郎賞を受賞し、『源氏物語』の現代日本語訳など精力的に執筆。この写真は、2017年12月12日号、女性自身「寂聴『青空説法』2800号記念インタビュー」の時。95歳。[写真3枚目]オードリー・ヘプバーン。63歳。1992年9月にソマリア訪問。これが死去する4カ月前だった。1988年3月9日にユニセフ親善大使に就任してから各国を訪問し人道支援活動を続けた。
1.心地良い存在になること
今日会う人にとって自分は心地良いか、浄らか(きよらか)か、鏡を見て考える。顔も髪も服も香りも言葉も仕草も。
2.真顔が笑顔
いつも口角に微笑みをたたえていること。それだけで自ずと心が前向きになり、不満や怒りを持たない精神状態になる。
3.テイカーではなくギバーになること
ギバーとは見返りを求めず与える人。つまり自分のためではない、誰かのために生きている自覚を持つこと。
4.軽めの断捨離
暮らしにゆとりができ、心が整い、無駄な物や事を望まなくなり、善い顔になる。ムキにならない整理整頓も鍵。
5.知性と感性を磨くこと
内面から滲み出る美の一つは、知性。内面美を外見美に変えるのが感性。だから知性と感性を鍛える読書や音楽鑑賞が、大人美を育てると言えるのだ。
お話を伺ったのは……齋藤 薫さん
エッセイスト、美容ジャーナリスト。女性誌編集者を経て多くのメディアで執筆するほか、美容関連企画に携わる。美容のみならず、美の価値観の変遷や女性の生き方にも深い知識を持つ。
2024年『美ST』2月号掲載
文/齋藤 薫 編集/石原晶子
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