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42歳で妊娠した【がん患者】が体験した卵子凍結とは

10代後半~30代のAYA世代(=Adolescent and Young Adult 思春期・若年成人期)と呼ばれる若いがん患者が、卵子や精子、受精卵などを凍結保存する「妊孕(にんよう)性温存療法」が注目を集めています。妊孕性とは、妊娠するために必要な能力のこと。今回はがん患者の卵子凍結について、医師に伺いました。

前回は、30代で悪性リンパ腫に罹患したがんサバイバーで、卵子凍結・顕微授精の末に妊娠した宮子さん(仮名)にお話を伺いました。宮子さんは、37歳でステージ4の悪性リンパ腫を患い、半年で寛解したものの、41歳で再発。再び寛解したタイミングで結婚し、42歳であらかじめ凍結していた卵子を用いて顕微授精に成功して妊娠し、安定期に入りました。

今回は、そんな彼女の不妊治療の主治医でもある、ローズレディースクリニック(*1)副院長・古谷正敬先生に、がん患者&がんサバイバーの卵子凍結について質問に答えていただきました。

教えてくれたのは…ローズレディースクリニック 副院長/古谷正敬先生
専門は不妊治療と腹腔鏡手術。特に早発卵巣不全や卵巣機能不全に対する不妊治療に豊富な経験がある。ローズレディースクリニックを始め、複数の医療施設で腹腔鏡手術にも取り組んでいる。

Q1:宮子さんのケースで行った卵子凍結の方法について教えてください。

*この記事内の写真はすべてイメージです

卵子凍結とは、卵子を卵巣から採取した上で凍結保存する妊孕性温存療法です。
卵巣刺激→採卵→卵子凍結という順に、施術を行います。

■卵子を育てる方法(卵巣刺激)(*2)
調節卵巣刺激という飲み薬、注射、点鼻薬などを組み合わせて卵巣の中にある卵胞を適切な状態に発育させます。

■卵を体外へ取り出す方法(採卵)
腟から超音波検査をガイドにしながら卵巣に針を刺して卵子を吸引します。数が多い場合や、性交経験がない場合など採卵時の痛みが強く予想される場合には、静脈麻酔という意識のなくなる麻酔を併用して行うこともあります。

■得られた卵子を凍結する方法(未受精卵子凍結)(*3)
採取した卵子を顕微鏡で観察して成熟した卵子であることを確認したのちに、ガラス化法という方法で凍結保存します。

得られた卵子を用いて、将来妊娠を試みる場合には体外受精(顕微授精)・胚移植が必要です。卵子を融解し、精子と顕微授精という方法で受精卵(胚)にしたのち、分割が良好な胚を子宮に移植します。

Q2:平均的に何歳くらいまで対応可能ですか?

特に年齢が定められているものではないですが、年齢とともに卵子の質が低下し、卵子1個あたりに期待できる妊娠の可能性が減少することを認識する必要があるでしょう。年齢が高い卵子を少数保存できたとしても、妊娠につながる可能性は低下します。できれば40歳未満での凍結が望ましいですが、当院では45歳未満としています。当院でも40歳以上で凍結した卵子を用いて妊娠に至ったケースはありますが、成功率は極めて低いです。

Q3:費用を教えてください。

自費診療となるため、医療機関により大きく異なります。当院での目安は下記になります。
■卵子を育てるために必要な薬剤費用・検査費用 2~5万円
■採卵費用 10~15万円
■卵子凍結費用 卵子の個数により決定 およそ1回の採卵で5~15万円
■卵子保管費用 卵子の個数により決定 およそ1回の採卵で保管したものに対し毎年5~15万円
■将来体外受精を行うための費用 1回30~50万円程度

Q4:助成金はありますか?

あります。ただし助成金を適応するためには認定された施設で、がん治療施設と綿密な連携のもとで治療を受けることや、患者さんによる患者登録システムJOFR-IIへの登録が必要となります。また、年齢制限があり、東京都では43歳以上は助成金を受けられません。助成対象の疾患の条件は都道府県のホームページ(癌患者等生殖機能温存治療費助成事業)で確認できます。(*4)
*宮子さんのケースでは、順天堂大学医学部附属浦安病院の血液内科と連携して治療を行いました。

Q5:卵子凍結することのメリットはありますか?

確実な妊娠を保証する方法ではないですが、突然がんの宣告を受け、様々な面で不安になっている状況で将来の妊娠への不安に対して「可能性」を残し、希望を与えることができる点が最大のメリットとしてあげられます。

Q6:宮子さんがどのような経緯で妊娠されたのか教えてください。

通常、がん患者の卵子凍結は、がん治療により卵巣機能が低下する前に行うことを目的としています。正常な卵巣機能が保たれているときに行えばそれだけ多くの数の卵子を凍結できるからです。ただし、がん治療後においても治療により受ける卵巣のダメージには個人差があり、わずかに残された卵子を保存することで可能性を見出すことができる場合があります。

今回の宮子さんのケースはまさにその一例で、初回のがん治療後に卵巣機能が著しく低下してしまいましたが、その後に患者さんの粘り強い努力もあり、2年近い期間をかけ、少しずつ残された卵子を保存し、合計7個を保存しました。

その後、時間とともに卵巣機能はさらに低下し自発排卵は無くなり、さらに不幸にも再度病気が悪化し、がん治療を受けることになり、治療後はまったく卵子が育たない状態に。しかし再度のがん治療も乗り越え、病状が安定し、ご結婚され、保管していた卵子を用いて妊娠に至ることができました。

Q7:がん患者やがんサバイバーの卵子凍結にデメリットはありますか?

今回のようながん治療後の卵巣機能低下患者に対する卵子凍結は、初回がん治療前の卵子凍結に比べれば一度の採卵で採取できる卵子の数も少ないため、肉体的負担や経済的負担も大きくはなり、まだ一般的とはいえません。しかしながら選択権は患者さんにあって、患者さんと相談の上、そのような選択肢も提示すべきと考えています。宮子さんのケースは、がん治療後にわずかに残った卵子を保存することに意義を見出すことができた治療でした。

【参考URL】

(*1)ローズレディースクリニック

https://roseladiesclinic.jp/

(*2)日本癌・生殖医療学会| 卵巣刺激

http://j-sfp.org/fertility/cos.html

(*3)日本癌・生殖医療学会 | 妊孕性温存方法

http://j-sfp.org/fertility/method.html

(*4)助成金・東京都の場合

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/gan_portal/chiryou/seishoku/josei.html

 

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取材/星野星子 編集/安岡祐太朗

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