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日本では半数以上の夫婦が陥っているといわれるセックスレス。特にミドル世代となると、体力やホルモンバランスの変化もあり「セックスレスでも問題ない」と考える夫婦も増えます。英語塾講師の美里さん(39歳・仮名)も「ミドル世代のセックスレスは普通のこと」と思っていたといいますが、夫の海外赴任をきっかけに「セックスレスならパートナーを変える」という選択肢について考え始めました。
愛知県出身の美里さんは、高校時代にアメリカの大学に進学することを希望していたそう。しかし体が弱くアレルギー体質の彼女を心配した両親は、家から通える大学に行くように説得。
「そのかわりに提案されたのがロンドンへの半年の語学留学でした。半年も4年もそんなに変わらないような気もしましたが、親にとって見れば大学卒業後にそのまま海外に定住されることが怖かったのかもしれません」。
近隣の大学に進学した美里さんは、約束通り半年間のロンドン留学へ。イギリス人の彼氏もできて充実した時間を過ごします。
「彼氏とは帰国してもしばらく遠距離恋愛をしていましたが、当時は今ほどオンライン通話のシステムも整っていない時代。一度日本に来て両親に挨拶したこともあったのですが、だいたい1年程度で連絡の頻度が減り自然消滅しました」。
大学卒業後は、航空会社のグランドスタッフに。20代は「モテキだった」そうで、交際に至った男性も数人いました。
「でも頭のどこかで留学時代のイギリス人彼氏の近況が気にかかっていました」。
ちょうど恋人が途切れた29歳の時に合コンで知り合ったのが、4歳年下で大手自動車会社勤務の圭さん(仮名)です。
「ガテン系のような体格なのに実は理系男子というギャップに惹かれて、自分から食事に誘って交際を申し込みました。向こうは私の性急な告白に少し驚いたようでしたが、交際を承諾してくれました」。
筋トレマニアで空手好きという男らしい雰囲気の圭さんですが、実は押しに弱く25歳にして女性との交際経験が「高専時代の彼女だけ」という控えめな性格。見かけによらず優柔不断でなかなかプロポーズしてくれない彼にイライラしたこともありましたが、美里さんが33歳の時に婚約。
「前立腺がんで手術をした父親が私の将来を心配して彼氏に会いたがっている、と私からお願いして実家に挨拶に来てもらったことで一気に話が進み結婚に漕ぎ着けました」。
結婚2年目に圭さんの海外赴任が決まり、美里さんは仕事を辞めて駐在先のデトロイトに同行することに。日本では「日常英会話は問題ありません」と言っていた美里さんですが、実際に住んでみると留学時代以上に「ままならない」と思うことも多かったそう。それでも現地でカフェ巡りをしたり、語学学校に通うなどマイペースに過ごしていたといいます。
「驚いたのが現地の健康診断の問診票で性生活について記入する欄があったこと。夫は交際開始当初から性欲が強いタイプではなく、その頃はすでに数ヵ月セックスをしないのは当たり前だったこともあって、面食らいました」。
そんな折に「実家が近い」という縁で、16歳年上の日本人女性の冬美さん(仮名)と仲良くなりました。
「語学学校の友人に誘われた教会のボランティアで出会った冬美さんは、通訳や翻訳の仕事をしていてご主人はアメリカ人。結婚は2回目で、日本人の前夫との間に設けた息子は日本で1人暮らしをしていると聞きました」。
お酒を飲みながら雑談をしている時に、美里さんが夫とセックスレスになりかけていることを告白すると、冬美さんからは「私と元夫はセックスレスになったから話し合って離婚をしたよ。今でも元夫とは連絡をとっているし、お互いのパートナーや子供と集まってバーベキューをすることもあるくらい仲がいいの。セックスライフが充実していないなら別れて友達に戻ればいいんじゃない?」というアドバイスが。
「子供は欲しいの?」と聞かれ、「想像ができないです。彼も私もお互い一人の時間が好きで、別の部屋で好きなことをしたいタイプなので」と答えると、カップルカウンセリングを受けることを勧められました。
「一理あると思ってインターネットで現地のカウンセリングについて調べたんですが、海外で価値観の合うカウンセラーに巡り合う確率を考えると、億劫さが勝ってしまい実現しませんでした」。
夫・圭さんの海外赴任は2年で終わったそう。帰国した美里さんは小学生向けの英会話教室で働き始めました。
「子供と接するのは好きな方でしたが、どちらかというと自分も子供目線で楽しむタイプで母性が強いとは言えません。妊活にはお金も時間もかかりますし、生活レベルを下げてまで子供が欲しいかと言われると…」。
美里さんの帰国からしばらくして、冬美さんの夫が日本で働くことになり帰国するというメッセージが届いたそう。
「そう遠くないところに住むことになったとわかって帰国早々、会いに行きました。ホテルのアフタヌーンティーでお茶をしていたら『その後、セックスレスは解消した?』と聞かれて」。
相変わらずセックスレスです、と答えようとして、ふと気がついてしまったという美里さん。
「その日はGWの『こどもの日』で、去年は温泉に行って夫婦で鯉のぼりを見たな、と思い出して。そういえば最後にセックスをしたのはその日でセックスレス1年だ、と気がついちゃったんです」。
冬美さんにもそう打ち明けると「そうか、セックスレス1周年か」と苦笑されたそう。
「開き直って『昼から飲んじゃいましょう』とお酒を頼んで、結婚生活の不満についていろいろと相談しちゃいました。酔った勢いで『もう離婚してやる』なんて口走ったり」。
かつてはパートナーチェンジのハードルを下げる発言をしていた冬美さんですが、今回は「でも旦那さんが嫌いなわけじゃないならいきなり離婚はどうなんだろう」と、再び夫婦でカウンセリングを受けることを勧めてきたそう。
「インターネットで家族カウンセリングの専門家を検索して夫婦で行くことにしました。夫は『せっかくの休みなのに…』と最初は渋っていましたが『もし子供を作るとしたらもう私には時間がないから』とタイムリミットを口にしたら、案外すんなり付いてきてくれました」。
初回のカウンセリングは、それぞれ理想とする性生活の周期や子供を希望するかどうか、相手の好きなところと直してほしいところなどをぞれぞれ問診票に記入してすり合わせる形式。
「夫は『性生活は月に1回。もしくは季節ごと』『子供は自然にまかせて授かれば1人』という回答でしたが、書きながら難しい顔をしていて『模範解答はこんな感じ?』という雰囲気で書いたように思えました。私も似たようなもので、『月に1回どこかに泊まって』『子供はいなくてもいいけれどできれば1人か2人』と書きましたが、本心かどうかは自分でも曖昧です」。
2回目のセッションも予約しましたが、圭さんが「責められている気がしてキツかった」と尻込みをしたためキャンセルしてしまったそうです。
「一応、カウンセリング後に一回だけ、スキー旅行に行ったタイミングで性交渉を試してみました。でも緊張をほぐすためにお酒を飲みすぎたせいかうまくいきませんでした。なんとなく気まずくなってそのままレス記録を更新しています」。
漠然とした焦りはあるものの、確固たる不満には至らない毎日を送っているという美里さん。夫婦それぞれ収入があり、経済的な余裕があっても子供を持たずに生活するライフスタイルである「ダブルインカムノーキッズ(DINKS)」には昔から密かな憧れがあったとか。
「夫は仕事仲間と飲みに行ったり男友達と格闘技観戦に行ったりと自由にしていますし、女性問題が発覚したことはありません。絶対に浮気をしていないとまでは言いきれませんが『バレていないならノーカウント』だと思っているので、振り返ると平和な30代でした。お互い自分の収入が自由に使えるので悩みも少なかった気がします」。
しかし40歳を目前にして「夫婦ともに性欲が強くないからセックスレスでも別にいい」と思っていた心境に変化が。
「最近、イギリス人の元彼とキスをしたり寝ていたり2人の間の子供をあやしている夢を見るようになって。性欲も以前より強くなっている気がします。このまま一生セックスをしないのもさみしいかなと思い始めました」。
昨年末、留学時代のルームメイトと再会して忘れられない元彼が「離婚したらしい」と耳にしたそう。
「今、密かにロンドン1人旅を計画しています。友達から元彼のSNSのアカウントを教えてもらったので連絡してみるつもりです。夫婦それぞれが好きなように1人旅に行けるのもDINKSの利点ですよね。ロマンチックな展開を期待をしているわけじゃないですけど、子供のいないアラフォーはイベントが少ないので、そういう『可能性』を自分で作ることが、なんとなく過ぎていく日々の拠り所になっています」。
メンタル的にも「揺らぎがち」な年頃になった里美さん。最近では冬美さんから「ペットを飼うのも楽しいわよ」と勧められているそうです。
※本記事では、プライバシーに配慮して取材内容に脚色を加えています。
取材・文/星子 編集/根橋明日美 イメージ写真/PIXTA
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