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日本では半数以上の夫婦が陥っているといわれるセックスレス。夫婦ではなく「60代の事実婚カップル」の場合はどうなのでしょうか? 今回は、30代で夫と死別して現在は事実婚パートナーと交際している60歳の歯科医師・恵子さん(仮名)に、お話を伺いました。
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東京都内で歯科医師として働く恵子さんは、自身のクリニックが入っている商業ビルごと所有するビルオーナー。他にもコインパーキングや賃貸マンションなど複数の不動産を持っており、歯科クリニックは「常連の患者さんのみ」の会員制とのこと。
「事実婚のパートナーがサンフランシスコ在住の日系アメリカ人なので、1年のうち2ヵ月くらい会いに行ってしまい、クリニックを閉めることもあります。彼と付き合いはじめてからアメリカに行くことが増えたので、患者さんには従兄弟の歯科医院を紹介したのですが、『それでも日本にいる時だけは恵子先生に』と言ってくださる方が、今も通ってくれています」。
恵子さんの夫は、恵子さんが35歳、1人娘のゆりかさん(仮名)が5歳のときに、心筋梗塞で急逝したそう。
「3歳年上だった彼は同じ歯科医師で、都内の高級住宅街に大きな庭を持つ資産家の一人息子でした。とはいえ、私と出会った時からバツイチ子持ちだったので、すべての財産を私が相続したわけではありません。私の実家も小さな持ちビルの中に入った歯科医院だったので、双方の実家から受け継いだ土地や建物、保険金などを元手に投資をしてきました」。
夫を亡くした当初は、仕事を長期で休むほど深刻な鬱状態に陥ったこともあるという恵子さん。
「突然のことだったので最初は、ただ悲しくて未来が不安でなにがなんだか分かりませんでした。それでも、大好きな母親と幼い娘の存在に支えられて、2年くらいの時間をかけて徐々にメンタルが回復しました。歯科医師の仕事を休んでいる間は、将来娘に住まわせてもいいと思えるようなワンルームマンションを買ったり株を少額購入してみたりして投資の勉強をしていました。私が30歳の時に亡くなった父親が株式投資や不動産投資が好きだったので、血を引いているのかもしれません」。
投資や慈善活動、海外旅行などをしながら心の傷を癒やした恵子さん。ようやく仕事復帰し始めた頃に、モテ期が訪れます。
「人生で40代前半が一番モテました。もちろん、20歳の頃は肌もピカピカなので、その状態で40代と同じ交友関係を持って、同じ態度がとれたらもっとモテたかもしれませんが。自覚はありませんが、20代前半はプライドが高くてツンとして見えたみたいで、モテませんでした。交友関係も似たような環境に育った同世代に限定されていましたし、そのコミュニティの中にはもっと美人もいたので、コンプレックスだらけ。今思うともったいないですが、若いって視野が狭くて自分や相手の欠点に目がいきがちなのかもしれませんね」。
40代になって、夏を家族でアメリカやカナダで過ごしたり、子供をバリ島のサマーキャンプに行かせている間に1人でバリに滞在したり、国外に出るようになったという恵子さん。
「お付き合いする相手は日本人のことも外国人のこともありましたが、アメリカ育ち、もしくはアメリカの大学に行っていた人とご縁があるみたいです。日本では『女医っぽい威圧感がある』といわれがちな私ですが、アメリカ人から見ると『優しい自己主張ができるほどよくスイートな女性』なんだとか……」。
40代の頃、10歳年下のアメリカ海軍で働く男性と交際して3年で破局した後、現在の事実婚パートナー・ヒロさん(仮名)と出会います。
「彼は同じ年で、バイオベンチャー企業のCEOをしています。少し太めで筋肉質、昭和のプロゴルファーみたいな体型の色黒男性で、包容力のある人。私の娘や母親とも仲良くしてくれますし、それでいて一線を引いてくれて家庭の中まで踏み込まない。バランスのいい優しい人です。結婚しない理由は、お互いバツイチで子供もおり、籍にこだわらないタイプだからだと思います」。
50代前半は、ヒロさんとの間の「セックスレス」に悩んでいたこともあるという恵子さん。
「交際2年目くらいから性交渉の頻度が減って、5年目くらいからほぼレスになりました。わざわざ休暇をとって一緒にすごしたくて渡米しているのに、老夫婦か兄弟みたいに過ごすのは味気ないしつまならいな、と思っていました」。
時には、単刀直入に「ロマンチックな時間がほしい」と告げたこともあったそう。
「その時は彼も反省して、旅行の計画をたてて、性交渉も含めたロマンチックな時間をとるようにしてくれたんですけど。こっちが主張しないと成立しないのでバカバカしくなって、いつの間にか何も言わなくなりました」。
それでも更年期が過ぎるまで、レスであることにモヤモヤを感じていたといいます。
「籍も入れていないのにレス状態でこのまま付き合う意味がある? 私が老けて魅力がないの? とか、時々ワーッと悲しくなることがあって、行きつけのカウンセリングルームで泣きながら話をしたこともありました」。
そんなイライラが、更年期を抜けた58歳からパタッとなくなったそうです。
「私、性欲って、性交渉をとりたいという欲のことをいうのかと思っていたんですけど。女性ホルモンが減ってから『異性として見られたい、異性としてチヤホヤされたい、という欲求も含んでいたんだな』と気が付きました。今だって『きれいだね』と言われれば嬉しいですが、昔みたいに『彼氏に異性として見られないなんてもう私なんてダメだ』みたいな悲壮感はなくなりました。憑き物が落ちたみたいに」。
恵子さんの場合、徐々に変わったわけではなく、58歳を境にパタッと意識が変わったそう。
「今は常連さんの口腔内のケアをしつつ、85歳になっても足腰達者な母親と暮らして、家を出た娘とショッピングする日本の生活に満足しています。同時に、渡米してパートナーと美味しいものを食べたり犬の散歩をしたりする日々も楽しみにしていて、2つの世界を自由に行き来しています」。
アラフィフよりはアラ還の方が、精神的に安定しているという恵子さん。
「老化は嫌なものですけど、パートナーとの関係はグンと良くなりました。別にこれから性交渉をとることがあっても『絶対嫌』ってわけじゃないですけど。そのためにいろいろボディケアをすることがめんどうで気が進みません。もしかしたら彼は、一足先にそんな心境だったのかもしれませんね。年は同じですけど、老化スピードには個人差がありますし」。
アラフィフの頃は「レスなのに付き合う意味があるの?」と思い詰めたこともあるようですが、今は「レスぐらいで、気が合う人と別れなくてよかった」と心から思っているそうです。
※本記事では、プライバシーに配慮して取材内容に脚色を加えています。
取材・文/星子 編集/根橋明日美 イメージ写真/PIXTA
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